人間、一度思い込んでしまうと、その思い込みに支配されることがよくある。
そうして壁が勝手にできてしまって、「その壁を乗り越えるのは無理だ」と思いこんでしまう。
陸上男子100m
最近、陸上男子100mでサニブラウン・ハキーム選手が9秒97の日本記録をつくった。
その前の記録が桐生祥秀選手が出した9秒98で、この記録が日本人で初めて「10秒の壁」を破ったタイムだった。
桐生選手がこの記録を出したのが2017年で、それまで伊東浩司さんが1998年に出した10秒00が19年も日本記録に君臨していた。日本人の心のなかには「10秒の壁」が厚く立ちはだかっていて、10秒を切るのは無理だという思い込みがあったのだと思う。
面白いことに、桐生選手が9秒台を記録すると、そのすぐあとに10秒を切りそうな選手が続々と出てきた。
1 9秒97 サニブラウン・アブデル・ハキーム 2019年6月7日
2 9秒98 桐生祥秀 2017年9月9日
3 10秒00 伊東浩司 1998年12月13日
山縣亮太 2017年9月24日 / 2018年8月26日
5 10秒02 朝原宣治 2001年7月13日
6 10秒03 末續慎吾 2003年5月5日
7 10秒04 小池祐貴 2019年5月19日
8 10秒07 江里口匡史 2009年6月28日
多田修平 2017年9月9日
10 10秒08 飯塚翔太 2017年6月4日
ケンブリッジ飛鳥 2017年6月23日
日本の歴代10傑を見ると、桐生選手が9秒台を出した後に、多くの選手が9秒台に迫るタイムを出している。これはおそらく「日本人に9秒台が出せたなら、俺もいけるぞ!」みたいな自信が湧いたからだと思う。
心の持ちようが変わると、パフォーマンスにも大きな影響を及ぼすのだ。
日本選手権が27日に開幕するが、ここでも9秒台の選手が現れるかもしれない。
1マイル競走でも同じことが・・・
このように、誰かが「壁」を破ると、とたんに「俺もいけるぞ!」精神で後続の選手がぞくぞくと現れることがよくある。
有名なのが、1マイル競走。1マイルは1600m。
この種目には「4分の壁」というのがかつて存在していて、人類が4分以内に1マイルを走るのは不可能だと専門家が断言していた。それはエベレスト登頂や南極点到達よりも難しいことだと思われていた。
しかし、1954年にオックスフォード大学のロジャー・バニスターが初めて4分を切ると、不思議なことに1年後には、なんと23人も4分の壁を切っていた。ここでも「俺もいけるぞ!」精神が発動したのだ。
ちなみに、現在の1マイルの世界記録はモロッコのヒシャム・エルゲルージが出した3分43秒13。
根拠のない自信はバカにできない
高校のときの先生が言っていたんだけど、筑波大付属高校や開成高校の生徒がどうして毎年あんなにたくさん東大に合格しているかといえば、根拠のない自信があるかららしい。
勉強もせず、模試の判定もよくない先輩たちが高3の夏から猛勉強して東大に合格していく姿を見た後輩たちは、「あんなんでも東大に合格したんだから俺でもいけるっしょ!」と思いこむという。
先輩がいけたから自分もいけるなんて思い込みはまったく根拠がないけど、そうしたポジティブな思い込みは自分の実力を引き出してくれるようだ。根拠のない自信は大事なのだ。
逆に、100mや1マイルのように、勝手に壁を作ってネガティブな思い込みに支配されると、どんなに実力があってもいい結果は生まれない。
「限界は自分の心が決める」という名言があるが、あれは本当にそのとおりなのだ。
- 作者: ニールバスコム,Neal Bascomb,松本剛史
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