開成高校野球部は高校野球の未来を先取りしている

 

 

 

 今年も熱い甲子園がやってまいりましたね。

 甲子園が開幕したということで、この前図書館でふと目にとまった『弱くても勝てます』を読みました。

 僕はこの本を読んでみて、「開成高校野球部は高校野球の未来を先取りしているかもしれないな」と思ったわけです。それについて書いていきましょうよ。

 

 開成高校といえば、毎年200人近くを東大に送り込む日本一の進学校です。

 その開成高校の野球部の戦略は「どさくさに紛れて一気に大量得点してコールド勝ち」というもの。

 

 どさくさに紛れてコールド勝ち。

 どうしてこんな戦略になったかというと、チームが弱すぎるからです。

 まず、選手は打球を捕るのではなく、打球を避ける。なぜなら打球は危険だからです。エラーは当たり前で大量失点は仕方ない。

 投手は相手に失礼のない者が選ばれる。つまり、ストライクゾーンに投げられるピッチャー。投手は四死球を連発して試合を壊しさえしなければいい。

 

開成では、

ピッチャー:投げ方が安定している

内野手:そこそこ投げ方が安定している

外野手:それ以外

なんじゃこりゃ!

 

開成高校は週に一回しか練習がなく、練習時間も短い。

練習時間はすべて打撃練習にあてがわれます。

開成高校は三振を恐れずとにかく振る。すべて長打を狙う。

で、どさくさに紛れて大量得点する。

開成高校が目指すのは、1-0の接戦ではなく、15ー10のような大味な試合です。

 

 

 伝統的な高校野球は、守備からリズムをつくり、攻撃でランナーがでればバントで送って堅実な試合をめざします。

 開成高校はこういった伝統的な野球とは正反対の野球をめざします。

 本書によれば、このやりかたで2005年の東京大会ではベスト16にまで登りつめています。それもほとんどすべての試合でコールド勝ち。5回戦で強豪の国士館高校に敗れました。

 

 

 僕は高校野球の未来は開成高校のようになっていくんじゃないかと思っております。

 堅実な接戦ではなく、打ち合いの大味な試合になっていくのではないか。

 

 というのも、ここ最近の夏は暑すぎてさっさとゲームを終わらせたほうがいいからです。夏の甲子園の地方予選では、決勝以外はコールドゲームが成立します。5回終了時に10点、7回終了時に7点差がついていれば試合終了です。

 

 接戦だとどうしても9回まで戦わないといけないが、大量得点してできれば5回で終わらせる。そうすれば選手は疲労が少ない状態で次の試合に臨めます。

 

 どんなにいいピッチャーでも、この夏の暑さのなかでいい球を投げ続けるのは困難です。今年のドラフトの目玉である星稜高校の奥川くんも去年甲子園で足をつって降板しました。灼熱のマウンドでいい投球をし続けるのはもはや不可能です。

 夏の暑さのこともありますし、最近大きな問題になっている球数制限のこともあります。今年の岩手県大会の決勝で大船渡の佐々木朗希くんが登板しなかったことが大きな話題になりました。今後の高校野球界はピッチャーの球数を制限するので、去年の金足農業の吉田輝星くんみたいな地方大会から全試合完投するピッチャーはもう現れないでしょう。

 

 それに、少子化による野球人口の減少という問題があります。野球人口が減ってくると、どうしても部員集めが大変になってきます。甲子園に出場するような高校でさえ、ベンチ入りメンバー18人に満たない高校もあります。すると、投手を何枚も用意することができない高校が当然大量にでてきます。

 

 夏の暑さ、選手の疲労、球数制限、少子化、こうしたさまざまな事情を考えると、コールドゲームでさっさと試合を終わらせるべきなのです。コールドゲームにするためには、大量得点する必要があります。

 ここで開成高校の「どさくさに紛れて大量得点しコールド勝ちする」という戦略が活きてくるのです。

 

 いい選手をたくさん勧誘できる私立高校と違って、公立高校はなかなか選手をそろえることができません。少子化、野球人口の減少は今後も続きますから、公立高校を中心に、開成高校野球部のような大量得点を目指す超攻撃野球を標ぼうするチームが増えていくでしょう。