森林は理想的な福祉社会だった

 

 『樹木たちの知られざる生活』を読み終わった。

 

 

 自然とか森林とか、山とかに興味がある人は絶対に読んだほうがいい!

 木についての見方がガラっと変わった。木には感情があるし、痛みも感じるし、他者とコミュニケーションもとれるし、自分の子どもに教育も行うという驚きの事実を知ることができた。

 

 

 この本で一番興味深かったのは、森林社会は社会福祉が整っているというくだり。

 木は土中で根を這わせているわけだが、その根を使って木はお互いに多くの情報をやりとりする。

 

 筆者のペーター・ヴォールレーベンによれば、彼の観察するブナの森では自由よりも公平に重きが置かれている。

 森林のなかには、岩場もあれば、腐葉土が豊かな場所、逆に貧しい場所がある。そうすると、場所によって生長の度合いも変わってくるはずだが、筆者の観察によると、どの場所に生えている木も同じように光合成できているという。

 筆者の考えによれば、土中に這った根を使って、栄養分が豊富な箇所に生えている木が貧しい箇所に生えている木に栄養を送ってあげているのだという。このようにして、木は互いに助け合っている。

 

 情報のやりとりは根だけではない。 

 アカシアの木は、動物に葉を食べられた時エチレンというガスを発する。それは風にのって他の木に警告する。警告を受け取った木は、食べられそうになったときのために体内に毒を準備する。動物のほうもそれを知っているから、警告の届いていない数百メートル離れた場所に移動して食事を続けるのだという。

 

 森林社会には、一匹オオカミのような木も存在する。

 このような木は他の木とコミュニケーションをとらないので、情報を受け取らないし、他の木に情報を送らない。そうなると他の木が困るのかというとそうでもないようだ。

 土中には木の根っこ以外にも菌糸類が張っているのだが、その菌糸をとおして木は情報や栄養のやりとりをする。木は菌類と同盟を結んでいて、お互いに利益をもたらしているのだという。菌糸は森林のなかで数万平方キロメートルにもおよぶ網を張っているので、社会に加わろうとしない木がいても問題はない。菌糸類のこうした網を、森林学者は「ワールド・ワイド・ウェブ」ならぬ、「ウッド・ワイド・ウェブ」と呼んでいる。

 

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 この前テレビを観ていたら、金子勇という偉い人が紹介されていた。

 この人は、winnyというファイル共有ソフトを開発した人で、そのwinnyにはpeer to peerという技術が使われている。このpeer to peerという方式は、個人(peer)と個人(peer)がつながるネットワーク方式で、コンピューター同士が互いに対等な関係にある。

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wikipediaより

 

 peer to peer方式が登場するまでは、中央に巨大なサーバーがあって、それを介してコンピューター同士がつながっていた。だが、これには大きな問題があって、巨大なサーバーがダウンしてしまうと、とたんにコンピューター同士がやりとりできなくなるのだ。

 一方、peer to peer方式の場合は巨大なサーバーを置かず、コンピューター同士がつながっているので、どこかがダウンしても別の経路をたどってコンピューター同士がやりとりできる。これが特徴である。

 仮想通貨もこのシステムを使っていて互いに監視しあうことで不正なやりとりを防いでいる。仮想通貨を生み出したのはサトシナカモトという謎の人物なのだが、この正体が実は金子勇ではないかと言われている。しかし金子勇は2013年に42歳という若さで逝ってしまったので、真相は藪の中である。

 

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 ここまで読んでもらったら分かる通り、森林社会っていうのははるか昔からpeer to peer方式を使って、理想的な社会を築いていたわけだ。しかも人間社会と違ってそこには完璧に公平な福祉社会が実現されている。

 

 人間の現実社会にこのpeer to peer方式を持ちこんだらどうなるだろう?

 

 多くの国民が思っているように、国会議員はろくに仕事もできないくせに高い給料をもらって偉そうにふんぞりかえっている。この政府=中央サーバーをなくして、国民(peer)どうしをつなげるシステムを構築したらどうなるのだろう?

 

 技術的にはすでに可能な段階だと思う。

 すでに個々の人間は情報化されている。その情報に基づいて、個々の人間からどのくらいの栄養(税金)を徴収し、どれくらいの栄養(お金)を支給するかは、AIが判断できるだろう。

 

 政治とは何かといえば、国民の命と健康を守ることである。個々の人間で能力や性質が違う以上、富む者と貧しい者が誕生するのは仕方ない。だから、富む者からいくらかお金を提供してもらい貧しい者に分配することで、国民全員が生存権の保障されたまともな暮らしを送れるようにすることが政治家の仕事である。

 だが現実は、富む者が政治家を囲い込み甘い汁を吸わせグルになることで、富む者と政治家はさらに富み、貧しい者はさらに貧しくなっている。人間は木より愚かな存在なのである。

 

 政府=中央サーバーが機能しなくなってきている以上、他のシステムを採用すべきではないか。ネットワークの世界がpeer to peer方式にして大きく発展したように、国家もpeer to peer方式にしてみたらいい。もしかしたら国家という枠組み自体が大きく変貌するかもしれない。

 

 分かりやすくいえば、税金の分配機能を政府からAIに移すのだ。

 政府はなくして国会議員もみな解雇する。もしかしたら中央省庁もいらないかもしれない。これだけでだいぶお金が浮くだろう。汚職もなくなる。

 

 自分にはこうした社会がどのような社会なのかあまり想像がつかない。

 AIが『1984年』に出てくるビッグブラザーになる可能性はある。いや、あるいは人間自身がビッグブラザーになる可能性もある。ネットの世界やSNSを観ていると、憎悪を抱いた匿名の集団が言葉の暴力を使い個人を処刑している。

 あるいは国民のほうに問題が噴出する可能性もある。AIの思考過程はブラックボックスだから、分配の仕方に不平不満がでる可能性がある。そうなると国民は一体誰に文句を言えばいい?国会議員なら選挙で落とせばいいだけだが、AIは解雇のしようがない。バンプオブチキンの『ギルド』や井坂幸太郎の『モダンタイムス』みたいな世界になる可能性がある。

 

 AIという菌糸によってつながった社会がどのようなものなのか、やっぱり想像がつかないが、なんにせよ日本という国家は沈みかかっているタイタニック号なのだ。

 それならば、この船から飛び移らなければならない。個人的には、AIを使ったpeer to peer方式の国家は救命ボートになりうると思う。