『恐い間取り』 怨念を浴び続ける人間はどうなるのか?

『恐い間取り』『恐い間取り2』を読み終わった。

 

 

著者の松原タニシは事故物件に住みます芸人として活躍している。

テレビ番組の企画で事故物件に住むことになり、それがきっかけで東京や千葉、大阪、沖縄の事故物件を借り住み続けている。事故物件というのは、殺人や自殺、孤独死などが起こった部屋で、貸主は次の借主にその報告をしなければならない。このような部屋は心理的瑕疵物件としてたいてい相場よりもはるかに安い家賃で住むことができる。みんな、こういう話は興味あるんだろうな、『恐い間取り』は2020年の時点ですでに20版を超えるベストセラーである。

 

最初は大阪の物件を借りたタニシ。世間を震撼させる殺人があった部屋で、しかも違法建築のマンションとやりたい放題の物件。この物件に住んだタニシは、ニット帽をかぶった男の霊やオーブを目撃する。しまいにはマンションを出た瞬間ひき逃げに遭う。しかも部屋に来た芸人仲間2人も同時期にひき逃げに遭う。こんなことがあっても1年住み続けるんだから、逆にタニシのほうが恐ろしい。他にも複数の事故物件に住んだり、霊がいるとうわさされるところでアルバイトをするタニシ。ある日のイベントで観客と写真を撮ったタニシはなぜかタニシだけが真っ黒になっていた。

 

芸は身を助くとはよく言うが、タニシに関しては助かってるのか助かってないのかよく分からんな。売れないお笑い芸人で事故物件に住むことになったタニシ。しかしそれがきっかけで事故物件住みます芸人として仕事が舞い込むようになり、本はベストセラーになり映画化もされた。しかしこの人は長く生きられないかもしれないな。あまりにも怨念を浴びすぎて、ある日事故物件で動画を回している際に気絶する。後日神社に行ってみてもらうとあまりにも憑きすぎていたらしい。仕事のこともあるので一部だけ残して祓ってもらったらしいが(そんなことできるのか…?)

 

この本がとても興味深い内容になっていてよく売れているのは、単に恐いだけではなく、お笑い芸人だからちゃんとツッコミどころがあったり、すごく考えさせられるところもあるからだと思う。

タニシは大阪長居の漫画喫茶で夜勤アルバイトしていた。ある日バイト初日の女の子が入ってきたが、一日でやめた。後日たまたま駅で出会ったので、なぜやめたのか聞いたところ「聞かないほうが絶対いいですよ」と言われた。それでも気になるので聞くと「私、見えるんですけど、仕事の片づけをしているとき向かいの空きビルに目を向けないようにしていたんです。でも気になったから見ると窓に何十人もの老人の患者がいてこちらを見ていたんです。でも気づいたんです、老人がいたのは向かいのビルじゃなくて喫茶のなかだと」タニシはそれを聞いた2か月後にバイトをやめた。いや、翌日じゃないんかーい!すさまじいオチだな、さすが芸人である。

そんなタニシだが、事故物件に住み始めるようになって、人の死について考えるようになったという。死が身近にあるからこそ、生きるということをよりリアルに感じられる。「いごく」という福島県の地域包括課の人からは「タニシさん、あなたのやっていることは福祉ですよ」と言われ自分のやっていることに自信がついたという。「いごく」が主催するフェスでは、老いや死を考えるために棺桶入棺体験や看取り体験ができるらしい。へぇこんな体験ができるフェスがあるんだなぁと関心をもった。

 

『恐い間取り2』のあとがきで考えさせられる文章がのっていたので引用しておく

その昔、おじいちゃんおばあちゃんの世代では誰もが家で最期を迎え、誰かの死が身近にありました。誰かが死んだ場所が事故物件になるのなら、すべてが忌み嫌われし事故物件であったはず。しかしそうではなかった。いつしか時代が変わり、核家族が増え、医療が発達し、“死”は見えないようにできるだけ遠くへ追いやられてしまい、そして”孤独死”や”事故物件”という言葉と共に、どんどん嫌われていったのです。

死が現実としてそばにあることを理解する。見たくないものとして蓋をするのではなく、死を身近に感じることで望まれない死=事故物件を減らすことに繋げられる。自分の死を考えることは、自分の人生を考えることです。どうやって死ぬのが自分にとって望ましいのか。いごくからは逆に僕が気付いていなかった大切なことを学ばせてもらいました。 P316-317

 

なるほどなぁ、人と人との結びつきが弱くなり、みなが孤独になっていくことで、死が疎遠になり恐ろしいものと思われるようなった。それが事故物件として忌み嫌われる要因になっている。たしかに死が身近にあるものなら、単なる部屋が恐いとは思わないだろう。事故物件は社会問題の一つだということを思い知らされた。