20回以上は観た『わたしを離さないで』

今週のお題「名作」

なんとなく観た作品だったが、とてもすばらしい作品で、たぶん20回は観ている。

主演のキャリー・マリガンアンドリュー・ガーフィールドキーラ・ナイトレイの演技も、映画全体に漂うあの雰囲気もとても良かった。

原作者がカズオ・イシグロというノーベル文学賞受者で、それもあって監督は日本のわびさびを取り込んだとどこかで語っていた。

彼らが演じるのはクローン人間で、将来自らの臓器を提供することによる死が予め決まっている。3回、ないしは4回目の臓器提供で、彼らの生は終わる。生の目的が生まれた瞬間から決まっている者たちの、友情や嫉妬、恋愛が描かれている。

あれがわびさびと言っていいのかよく分からないけれど、あの映画全体に漂っている雰囲気、うまく形容できないけれど、空を厚い雲が覆って陽がさしてこないどんよりとした感じが、クローン人間たちの人生を見事に表している。この作品はイギリスの映画で、イギリスかロンドンの天気も曇天が多いとよく聞くから、あれだけ上手く描けたのかもしれない。自分も日本海側の、ずっと天気の悪い地域で生まれ育ったから、あのどんよりとした感じに共感できた。

物語の終盤の、トミーが道の真ん中で感情を爆発させて叫び、それをキャシーが強く抱きしめるシーンは、何度見てもこみ上げるものがある。そして、最後キャシーが、自分の育った寄宿舎の跡地を見ながら、自問自答する。

私たちとそれ以外の人の生に、一体なんの違いが?という問い。

クローン人間は臓器提供という目的のために生かされ、そして臓器提供によって死ぬ。一方で、私たちは、一体なんのために生きて、なんのために死ぬのだろうか?

奇しくも最近、豚の臓器を人間に移植するというニュースがあった。すでに現実では、豚の臓器提供が行われようとするところまできているのだ。とはいえ、私たちはすでに、食べるために牛や豚、鳥を育てているし、より飼い主に愛されるための見た目になるように交配させたネコや犬を生み出している。豚の臓器提供の倫理問題以前に、私たち人間は多くの罪を犯しているのである。

この映画は、どんよりと厚い雲に覆われていると書いたけど、だからといって暗いわけではない。キャシーたちクローン人間は、ある程度の年齢になると自分たちの運命を認識するが、それでも普通の人たちと同じように、友情を育み、恋愛をし、そして嫉妬もする。もしかしたら、逆に、彼らの生のほうが充実しているのかもしれない。現代人の多くが、なんのために生まれて、何をして喜ぶのか、分からないまま終わっていく。それならいっそのこと、システムによって生を決められている人生のほうがいいのかもしれない。まぁこういうことが言えるのはある種の特権なのかもしれないが。

不思議なことに、原作のほうは一回しか読めなかったんだよな。なぜだか分からない。外国文学は、文体のせいかなんのせいか分からないが、読めない。あらすじで面白そうと思って読み始めてもだいたい挫折する。映画ではこういうことは起こらないのだけど。