サービスやモノをシェアする文化が定着しつつある。
車なんかはそれが顕著で、所有するものからシェアするものへとなりつつある。配車サービスを利用して、自分が必要なときにだけ車を利用するのが当たり前になる時代が訪れるだろう。
また、「シェアハウス」という言葉があるように、一つの家にいろいろな人が住むことにも抵抗がなくなっている。家族のつながりが希薄になるなかで、まったく見知らぬ者どうしの絆が生まれる素地が育まれようとしている。
車や家に限らずあらゆるモノやサービスがシェアされる。
であれば、街自体もシェアしちゃえばいいんじゃないかというのが僕の考え。
そしてそれを可能にする生き方が「デュアルライフ」だ。
個人的には、デュアルライフが個人の生き方を豊かにする選択肢であるとともに、地域の抱える問題を解決する一つの手段でもあると考えている。個人と自治体、双方にメリットがあると思う。
ここでは、まずデュアルライフとはそもそも何か、そしてそれが個人と街にどのような影響を与えるか考えてみる。その後、デュアルライフ先進国であるロシアのダーチヤを紹介する。
デュアルライフとは何か
デュアルライフは二拠点生活とも言われる。
デュアルは「二重・二者」、ライフは「人生・生活」という意味。
具体的にいえば、都市と田舎双方に生活の拠点を持つライフスタイルのこと。
デュアルライフは最近注目を集めつつある言葉で、デュアルライフを実践する人のことを「デュアラー」と言うらしい。デュアラーはリクルートが運営するスーモの2019年トレンドワードになっている。
二つの居住空間を持っているというと、なんだかお金持ちだけの話のように聞こえるが、シェアハウスや空き家を利用したサービスが始まったことによって、20~30代の若者でもデュアルライフを始める人が増えているそうだ。
スーモの調査によれば、デュアラーには20~30代のビジネスマンが多く約6割を占めている。世帯年収としては年収800万円未満が約5割で、全体の16%は400万円未満だ。
僕も実はデュアラーで、都市部と田舎を行ったり来たりしている。
デュアラーになろうと思ってなったわけじゃないけど、今の生活がちょうどデュアルライフに当てはまっている。
僕の場合はだいたい二日おきに都会と田舎を行ったり来たりしている。
田舎にいるときは畑を耕したりしている。
スーモの調査によれば、デュアルライフ実践後の生活満足度は「上がった」と「やや上がった」の合計が74%に達した。
これはデュアラーの僕も納得で、都会にずっといると息苦しくなってくるのが、田舎に行って自然に囲まれていると息抜きできるのだ。また、都会と田舎を行ったり来たりすることで、オンとオフの切り替えがスッとできるようになる。それによって、生活にメリハリが生まれる。
デュアルライフは自治体にもメリットあり
空き家問題の解決策
デュアルライフは自治体にもメリットがあると思っている。
その一つが空き家問題解消だ。
全国的に空き家問題は大きな課題となっている。僕はいろいろなところを歩いたり、自転車で旅するのが好きだが、街をぶらぶらしていると空き家が割とあるし、今にも崩れ落ちそうな家もある。
(統計局HPより https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2013/10_1.html)
平成25年の時点で、空き家率はすでに13.5%に達している。数にして820万戸だ。おそろしい数である。
少子高齢化が進み、一人暮らしのお年寄りが増え続けていることを考えれば、今後空き家率が上昇することはあっても下降することはないだろう。
普通に考えれば、空き家が今後も増え続けるのは間違いない。
この空き家問題を解決する一つの手段として、デュアルライフがある。
個人あるいは家族が複数の拠点を持てば、それだけ空き家も少なくなる。
どう考えても、この先日本の人口が増えることはないのだ。だとしたら、個人あるいは一つの家族が一軒の家を所有するという常識を覆す必要がある。
空き家のリスクの一つに倒壊の危険性がある。
これは人が住まなくなって風が通らなくなり、材がもろくなるのが原因だ。
人がいるだけで家は長持ちする。経済的にも、景観的にも誰かが家にいる必要がある。
多くの人が複数の家を拠点にすれば、それだけ空き家が少なくなり家が長持ちする。
この意味でデュアルライフは空き家問題解決の一助になるだろう。
関係人口が増加する
関係人口が増加するのもデュアルライフの魅力だ。
関係人口とは、移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域や地域の人びとと多様に関わる人々のこと。
デュアラーは観光に来ている人ではないし、移住しているわけでもないから定住人口でもないと思う。でもそこにいるあいだは地域や地域の人びとと関わっているから、デュアラーは関係人口に分類されるのではないか。
関係人口は最近いろいろな自治体が注目しているワードで、総務省も「『関係人口』創出事業」というのを行っている。地域に興味を持ってもらって、まちづくりに関わることで、将来的には移住してもらう。関係人口は、その指標として使われている。
多くの人が移住に興味を持っていると思う。
都市部の人は都会の息苦しい生活に疲れて、田舎ののんびりした生活に憧れている。といっても田舎の濃い人間関係や不便な生活は嫌だという人も多い。移住したいけど、腰が重いなぁという人はけっこういるはずだ。
移住は、拠点を完全に移してしまうことだからしり込みしてしまう。
ならばデュアルライフをすればいい。都会には都会の良さがあるし、田舎には田舎の良さがある。都会と田舎の両方に拠点があれば、いいとこどりできる。
自治体は移住政策に力を入れているが、移住よりもデュアルライフに力を入れたほうがいいと思う。
生活の拠点を完全に移すというのは非常にストレスが大きい。
一方、デュアルライフは、生活の拠点を移すのではなく、増やすということだから、移住よりもはるかにストレスが少ない。
それでも移住政策に力を入れたいのであれば、移住とのあいだのクッションとしてデュアルライフを推奨すればいい。
経済的にもデュアルライフはメリットが大きい。
民泊だと宿泊期間が短いので、あまりお金が落ちてこない。
一方デュアルライフはそこで生活するわけだから、お金がその街に継続的に落ちる。
デュアルライフは経済的にも価値があるのだ。
自治体はいろいろなかたちのデュアルライフを提案すればいい
デュアラーには空き家をリノベーションして住んでいる人たちもいる。
でもそういうことをする時間やお金がないという人は多いと思う。
そういう人たちには、デュアルライフ用のシェアハウスを用意したらいい。
今のシェアハウス事業は、一つの家に複数の人が住んでいるのが主だ。
自治体や企業はこれを参考にして、デュアルライフ用のシェアハウスを地方各地に用意したらいい。そしてそれを民泊と併用して使えばいい。
スーモの調査にもあったように、多くのデュアラーはシェアハウスを活用している。
シェアハウスにすれば、生活にかかる費用がだいぶ抑えられるから、デュアルライフも気軽に始められる。
デュアラーの半数が年収800万円未満で、16%が400万円未満。
知恵さえしぼれば、デュアルライフにそんなにたくさんの費用はかからない。
自治体と企業がタッグを組んでデュアルライフ事業でも起こせば、コストはもっと下がるだろう。そうすればデュアラーは今後ますます増えていくことになる。
ロシアはデュアルライフ先進国
ロシアはデュアルライフ先進国である。
といっても、ロシア人にデュアルライフという言葉はなじみがない。
ロシアにはダーチヤというものがある。
ダーチヤとは、菜園つきのセカンドハウスのこと。
つまりダーチヤとは、ロシア版デュアルライフのことなのだ。
1700年代に、ピョートル大帝が家臣に庭付きのハウスを与えたのがダーチヤの起源。
一般大衆にダーチヤが広まったのは、第二次世界大戦から戦後にかけてで、食料難がきっかけだった。
戦争による食糧難で、政府が「自分たちで食料を確保しろ!」と号令をかけ、人々に土地を与えたことでダーチヤが一般的になっていった。
(いずれもwikipediaより)
最初は物置小屋のような粗末な家屋が多かったが、最近では電気・ガス・水道が完備された立派な家も多い。自分の手でこういった設備すべてを作り上げるロシア人もいる。
ダーチヤを持つロシア人は、平日は都市部で働き、週末にダーチヤのある田舎へ行き畑仕事をする。夏のあいだは家族でダーチヤに移り住むこともある。
自給自足のために野菜をつくる人もいるし、販売するために野菜をつくる人もいる。
ガーデニングを楽しむ若者や、自然保護の目的でダーチヤを活用する人もいるという。
ダーチヤが普及しているロシアは、デュアルライフ先進国なのだ。
街もシェアしよう!
世界的にシェアの文化が広がっている。
所有する時代から、シェアする時代になってきている。
あらゆるモノやサービスがシェアされるなら、街もシェアしてしまえばいいではないか。
デュアルライフで人が街をシェアする。
多くの人が複数の拠点を持つことで生活を充実させている。
一方、街のほうでも人を囲い込むことなんてしなくていいのではないか。
デュアラーが増えれば、住民税など制度面で問題が起きるかもしれないけれど、そこらへんは柔軟に制度のほうを変更していけばいいと思う。
前述したように、デュアラーが増えたほうが、街にとってもメリットが多いと思う。
人々の生き方や生活が、もっと柔軟で多様性に富んだものになったらいいなぁ。
参考
「デュアラー」 都心と田舎の2つの生活=デュアルライフ(2拠点生活)を楽しむ人|リクルート住まいカンパニー
統計局ホームページ/平成25年住宅・土地統計調査(速報集計)結果の要約