読んだ本の感想

『哲学の冒険』

何年かぶりの再読。再々読かも。

内山節の本は何冊か読んでて、本を読むと、この人は地に足つけて哲学してるなぁと思うんだよなぁ。哲学者ってまぁひねくれてるから、小難しい話をこねくり回す。現代思想なんかは特に、現代アートと同じく、内容がよくわからん、内容がないということに意味があるかのような、一見ふざけたものが多くて辟易する。

一方で、内山の本は、特にこの本は中高生向けに書かれているので、分かりやすい。読者と同じ目線で、いろんな哲学者に触れていくので、入門書としては一番オススメできる。

今回読むと、自分が以前読んだときからかなりひねくれてしまったせいか、まぁ中高生向けというのもあるが、人間に対して希望を持ち過ぎではないかと思った。未来とか、希望というのが強調されすぎている、人間の可能性を信じすぎている。人間という存在が、どれほど愚かで、朽ち果てるべき悪魔のような存在なのかということにあまり触れていないんだよな。社会が人間の自由を奪っているとか、抑圧しているということについては言及されていて、それに対して個人が自由であるためにどう哲学すればいいかということについては考えているのだけど、こういうのは人間の可能性をあまりに無垢に信じている感じがして好きではない。人間というクソみたいな存在にうんざりしてしまっているので、この本の見せる哲学のきらびやかな?部分を受け入れることができない。

 

『暗黒の啓蒙書』

この本は上の本に対してむしろ、暗黒に誘うための哲学になっている。本の解説者いわく、この本はアジテーションのための本なので鵜呑みにしてはいけないらしいが。

とはいえ、クソ国会議員の裏金問題やイスラエルハマス戦争の件をみても、民主主義は機能していないのではないかと思いたくなる。いや、より正確にいえば、システムに問題があるのではなく、それを運営する人間が未熟なのかもしれない。より具体的にいえば、今の政治の中枢を担っている高齢者の倫理観や能力に問題があるせいかもしれない。東京オリンピックを見ていても、若い選手は人としても尊敬できる一方、政治家や電通などのクソどもは見ていて不快だった。

その民主主義のオルタナティブとして、新反動主義という、国家は企業のように運営されるべきだという主張を行う。この流れで、資本主義は加速され、出口へと向かうというのがニック・ランドの思想である。この思想がスティーブ・バノンに利用され、トランプ政権の誕生につながったらしい。民主主義もクソだが、新反動主義はもっとクソである。

 

『ダークウェブ・アンダーグラウンド

面白かった。この人のことは、『闇の自己啓発』で知った。既存のシステムに辟易している人には、上の『暗黒啓蒙』含めて読んでみるといろいろ知れて面白いと思う。

ダークウェブについて、闇のアマゾンと言われるシルクロードや暗号資産、児童ポルノ、ニック・ランドのことも、いろいろわかりやすく書いてある。

この本で一番興味深かったのは、ビットコインブロックチェーンについて。ビットコインの発明者は、サトシ・ナカモトという未だに正体の分からない人間で、ネット上のサトシ・ナカモトはアメリカ人かもしれないし、女性かもしれない。

サトシ・ナカモトの発明した暗号通貨は、デジタル署名というものによって保証される。この署名によってネット上では自己同一性が担保されるわけだが、これは現実での自己同一性を担保するわけではない。現実では複数の人が同じアカウントを所有していてもいいわけで、デジタル署名はそのアカウントの自己同一性が保証されているだけなのだ。

これって面白いよな。これは別に暗号通貨だけの話ではなくて、たとえば現実世界において、俺がサトシ・ナカモトだと言ったって構わないのだ。もちろん、ネット上のサトシ・ナカモトのアカウントを知っていればの話だが。とはいえ、これはけっこう革命的な話だと個人的には思っている。ネット上では多重人格は普通にありうる話で、一人の人間が複数人になれるし、複数の人間が一人になれる。量子力学みたい。

 

『ルポ路上生活』

著者が二ヶ月間、東京のあちこちでホームレス生活した話。面白い。

読んでると、ホームレス生活、悪くないよなと思わせられる。炊き出しが毎日どこかでやってるし、宗教団体やNPOが衣服や寝袋、お金を支給してくれるらしいし。

よくテレビやネットニュースで、ホームレスの苦難をことさらに取り上げて政権批判する論調があるらしいが、それは一部を大きく取り上げただけだと著者は言う。

この本を読んでると、そこまで生活が苦痛に見えないし、むしろ楽しそうな感じもあるが、多分基本的に楽観的か相当バカでないとできないだろう。著者は海外放浪もやってたし、インドとかの汚いところで生き延びられる人間なら東京の野宿生活はむしろ快適だろう。

あとこの著者、ホームレスとすぐに仲良くなれるという特殊能力がある。このコミュニケーション能力は大事だ。そして、筑波大学卒だから頭もいい。情報収集能力が高い。こういう人間はタフだからどこでも生きていける。

そして、生きる力って本来こういう能力をいうんだと思う。テストで高得点とって東大に入れる人間が一番生きる力が高いなんて誰も思わないだろう。そうなのだ。どこでも適応して快適さを自分で開発することができる人間が一番生きる力があるのだ。