膝から生えている白くて細長い毛

この前椅子に座って空をぼっーっと眺めていたら、ホコリみたいなのが宙をふわっと舞っていて、つかんだらチクッと軽い痛みがあったので、なんだと思ったらホコリじゃなくて毛だった。それは膝横から生えていた。

膝横は不毛地帯で、薄くて短い毛しか生えていないのだが、一本だけ白くて3センチくらいはありそうな細長い毛が生えている。そんな毛があることに生まれて初めて気づいた。

それは白いというか透明に近くて、目をこらして見ても見えない。光のあたり具合によって見えるときと見えないときがある。でもその毛は常に揺らめいていて、軽いダンスを踊っているように見える。

おれは、この白くて細長い毛のような存在になりたいと思った。

この白い毛は、周りから浮いていて特異な存在だが、だからといって目立つこともない。そしてそれは何の役にもたたない。これはあれだ、荘子に出てくる無駄にでかくて何の役にもたたない大木のような存在だ。おれはこういう存在でありたい。

そして、この白い毛はおそらく真理とか真実と呼ばれるものと同じなんだと思う。村上龍の『共生虫』という小説で次のような記述がある。

真実はいつも細い谷を静かに流れていて、その流れが絶えることがないが、その流れそのものを見つけることが非常に難しい。はっきりとした目的を持った人間だけが偶然の助けを借りてその流れに出会う。一度その流れのようなものを捉えることができれば、あとは進むべき方向を見失うことはない。 P299

何かを達成するために必要なものは、まずはっきりとした目的だ。だが、それだけでは足りない、運が必要なのだ。ツキに恵まれた者だけがその流れに出会うことができる。そして、歩むべき道を進むことができる。

だから、本当に凄い人間は決して奢らないし偉ぶらない。なぜなら運が良かったにすぎないからだ。それを知っているから、その人間の頭は常に垂れているのだ。

膝横から生えた白い毛は、以上のことを教えてくれました。