ダルビッシュ有の考え方に感動する

Number1014号、ダルビッシュ進化論を読む。

WBCダルビッシュを報道とかで見ていて、考え方が素敵だなと思って、Numberも読んでみた。

トップクラスの成績を残した誰もが認める成功者なのに、謙虚で研究を怠らないというのがすごい。WBCの合宿とかでも、一番年上で、でも山本由伸や佐々木朗希など若手からも何かを吸収しようとする探究心がありながら、若手からアドバイスを求められたら余すことなく教えようとする。自分個人が、ではなく野球界全体が発展するように、自分の持っている知識や経験を伝える。しかもそれを、押し付けるのではなく、あくまで参考として伝えるというのはなかなかできることではないと思う。

ダルビッシュによれば、野球界では、OBは成功してきた自分の経験に照らして若手を指導するという。自分のやってきた成功体験が、そのまま選手に合うか分からないのに、型にはめ込もうとする。それに、自分の持っている知識を自分のチーム以外には伝えようとしないという。確かに、ライバルチームに教えてしまえば戦力が上がって負けてしまうからそれは普通といえば普通だ。でも、お互いに教えあって高めていけば、全体でレベルアップすることができる、こういう考え方ができるダルビッシュはすごいと思う。

ダルビッシュは、野球というよりは、変化球が好きらしい。変化球のことをずっと考えている。だからこそ、たくさんの種類の変化球を高い精度で投げられるらしい。これ、なかなか面白いと思った。野球そのものよりも、変化球が好きというクセの強さ。

あと、Numberのなかで興味深かったのが、奥さんが自分のせいで成績が残せていないのではないかと泣いているのを見て「情けないな」と感じた二週間後くらいから、まるでパズルのピースがはまっていくかのようにすべてがうまくいきだしたというくだり。実際、そこから急に四球の数が減り、活躍できるようになったという。

たかたけしというマンガ家の『住みにごり』という作品の解説で、乗代雄介が彼について「人間性はとても面白いが10年やってもマンガ家としての芽が出なかった。これは厳しいだろうなと思っていたら、一気に技術が着いてマンガで食っていけるようになった。一体、10年何していたんだろうと思った」というようなことを書いている。

あることを極めようとしている人間の成長って、おそらく坂道を登っていくかのように日々進歩するのではなく、階段を登るようにいきなり能力が跳ね上がるのだと思う。ある点までは、進歩しているのか退歩しているのかわからないような、平行線がずっと続くのだが、ある点に来ると視界が急に開いてすべてが見えるようになる。ダルビッシュもたかたけしも、それが訪れたから能力が急に跳ね上がったのだと思う。

知り合いも、40代を超えてそれまでの知識とか経験が結晶化して、あのときのあれはこういう意味があったのかと分かった瞬間が訪れたと言っていた。そういうのを結晶化知性というのか知らないが、パズルのピースがすべて合わさって完成する瞬間というのがあるらしい。人間てのは面白いな思う。誰もがこういう経験をできるのか知らないが、たぶんこういうのって物事を突き詰めていった人間にしか経験できないものだと思う。

野球界というか、社会にダルビッシュのような人が現れたことって本当に素晴らしいことだと思う。上の世代の人たちは、ダルビッシュと比べたらすごく視野が狭いし、自分の考えとは違う人間は受け入れず否定する。そういう態度って、結局社会全体でみればマイナスで息苦しい。ダルビッシュのような圧倒的な成功者が、若手の考えを尊重しつつ自分の考えや経験を伝えていくというのは教育のありかたとして理想だと思う。ダルビッシュも引退したら、イチローのように全国を飛び回って指導とかしたらアマチュア野球ももっと盛り上がるだろうな。