今後のこと

 僕は今後、一体何になりたいのか。

 

 今は便利な都会と、自然豊かな山を行ったり来たりしている。

 便利な都会で簡単なバイトをし、山でチェンソーを使って木を伐採し間伐した木でサウナ小屋をやりたいと思っている。山は、まわりに人家もなくとても静かな環境で、僕はそこでバイオリンも弾いている。僕はこの生活をとても気に入っている。

 

 山には芸術家のアトリエがあって、そこはこの前、人が寝泊まりできるように改築した。僕が世話になっている芸術家は、そこでレジデンスアートをしたいと思っていた。レジデンスアートというのは、一定期間芸術家がそこで生活しながら作品を作るというもの。僕が世話になっている芸術家は、そこにいろんな人が集まって何か創造的な概念なり、作品なりが生まれることを夢見ていた。

 

 つい一週間前、下見がてらアメリカから仏像を彫る人がやってきた。今はアメリカ国籍だけど、日本人の芸術家。都会と山の二拠点を、僕と芸術家とその仏像を彫る人で行ったり来たりしながら、寝食をともにした。僕は仏師さんの、その恬淡とした人柄がすごく好きで、できればここにずっといてほしいと思っている。

 

 あぁ楽しい日々が始まりそうだなぁと思っていたら問題が起きた。

 今日世話になっている芸術家から、レジデンスアート計画をやめようかと思案していると聞かされたからだ。寝耳に水である。仏師さんのオカルト的な仏教観が自らのそれと合わないのと、町おこしの一環で行われているレジデンスアートのなかに自分の計画が埋もれてしまうのを危惧したかららしい。

 

 僕は仏師さんに来て欲しいからあれこれ言っていたら、ものすごい剣幕で怒鳴られた。はぁ、しんど。

 

 僕は今、今後についてすごく悩んでいる。

 最初ここに来た時、世話になっている芸術家はものすごくやさしくて親切だった。しかし時間がたつにつれて、僕は少しづつぞんざいに扱われるようになり、きつい言葉を浴びせられるようになった。仏師さんが来てからは、僕はまるで召使いのような立場にいる。僕の理解力が足らないせいかもしれないけど、何を言われているのかさっぱり理解できないことが多く、いっしょにいるとすごく頭が疲れる。うかつに発言すると、きつい言葉を投げかけられるから、正直いっしょにいたくない。

 

 今の生活スタイルはとても楽しいし、自分のやりたいことができ、目指しているものに遅々とした歩みだけど少しずつ近づけている。でも、その一方で、芸術家といるとすごく疲弊して精神がすり減る。かなりストレスがたまる。「今日話したいことがあるから」と言われるだけで、「あぁまたなんか言われるだろうな」と憂鬱な気分になる。

 

 この前知り合いの大工さんに、「君はあの人(芸術家)のところにいて何か学べるんか?君にもし何かあったときにあの人は助けてくれるんか?あの人を慕ってよっしゃ助けてやろと思ってくれる人がいるんか?あの人、うだうだしてて何が言いたいのか、わしよく分からんのや、君はそんな人のもとにずっとおるつもりか?そんなんじゃ、もってもあと2、3年やで」と言われたのだが、僕は何も言い返すことができなかった。大工さんが言う通りだと思ったから。

 

 僕は、今後どうしたいのだろうか。

 ここにいたいけど、同時にここにいたくない。

 実家に帰ることもできるけど、実家よりはこっちの生活のほうが楽しいからここにいたい。

 

 自分はここにいたいのか。

 将来どうしたいのか。

 ここにいることが自分にとって正解なのか。

 あぁ、どうしたらいいのか分からない。