1 日本人の多くは長期休暇を歓迎していない
今年のGWは10連休なので喜んでいる人も多いのではないだろうか?
しかしどうやらそうでもない人もけっこう多いようだ。
昨日スマートニュースを見ていたら、GWに10連休していたら生活が苦しくなるので、GW中にできる短期バイトを探している人の記事があった。
その人は派遣社員で時給制なので、10連休もしていたら手取りが大きく減ってしまう。時給1200円×8時間労働で一日9600円の彼が10連休すれば、96000円分の手取りが減ってしまう。
この穴埋めでGW中に短期バイトをしなければ6月の生活が苦しくなると訴えていた。
大手旅行会社エクスペディアの調査によれば、GWの10連休が嬉しいか尋ねたところ、半数にせまる46%が嬉しくないと答えた。
そう答えたのは、医師や弁護士などの専門家や主婦・主夫、パートやアルバイトだった。人手不足や、子どもが家にいるということで余計に忙しくなるからという理由からだ。
時給制で働く派遣社員やフリーターは給料が減るから、専門職に就いている人や主婦・主夫は忙しくなるから長期休暇を歓迎していないことが分かる。
2 フランス人のバカンス
バカンスとはフランス語で長期休暇という意味。
フランスでは、最長5週間(35連休)のバカンスが認めらている。
GWの10連休に辟易している日本人は、35連休なんて言われたら発狂してしまいそうだ。フリーターなんて「どうやって生活していけばいいのか・・・」と頭を抱え込むに違いない。
しかし、バカンス中のフランス人は発狂しない。それはなぜだろう?
フランス人は、仕事は人生の一部と考えている。休日は人生を充実させるために必要なものと認識している。
フランス人のバカンスでの過ごし方は、基本的に家族でゆっくり過ごす。
観光地をあちこち旅行するのではなく、田舎や自然の多いところで穏やかに暮らす。
一般的にバカンスは高級リゾートで遊ぶというイメージがあるが、田舎や自然の多いところで家族でキャンプをしたりして過ごす人も多い。北部と南部の人たちでお互いの家を交換してバカンスを過ごすという人たちもいるようだ。
バカンスは本当の意味での「休日」で、家族とゆっくり過ごしてエネルギーを充実させるための期間と位置づけられている。
フランスではバカンスは主に夏に取得される。暑い夏に休むためだ。
この時期、大都市の経済はストップする。工場やオフィス、商店などは閉鎖してしまうのでパリなどの大都市は閑散としたものになる。みんなが避暑地に移動するのだ。
その代わりに田舎や自然の多いところの経済が潤う。そういう仕組みが出来上がっている。
3 バカンス法
フランスではバカンスが法律で定められている。バカンス法というものがあるのだ。
歴史をひもといてみると、19世紀における長期の余暇は、貴族やブルジョワ階級といった位の高い階層のみ享受しているものだった。
20世紀に入り社会主義政党が躍進すると、労働者階級にも長期の余暇を認めるべきだということで、二週間の長期休暇が認められることになった。1930年代のことである。
これが次第に三週間、四週間と伸びていき現在の最長五週間になった。
バカンス法では、一ヶ月に2.5日、年で30日の有給が認められている。これは企業で10日以上働いた者にすべて適用される。この適用に管理職や労働者といった区別はない。
休暇の取得は連続して12労働日以上でなければならず、24日を超えることはできない。
有給休暇における手当は、年収の十分の一、あるいは休暇期間に働いたときに払われる分に相当する金額となる。
これに加えて勤続年数が長ければ、さらに休日を取得できたり手当が割り増しされる。
また専門職や管理職には、労働時間の短縮日や有休の特別加算などが付与される。
4 フランス人の労働生産性は低くない
バカンスは法律で定められているものであり、階級や階層に関係なく国民全体が有給を取得するのは当然のことと考えているので、みながきっちり休める。
企業も有給をちゃんと支払う(そんなことは当たり前のことなんだけど)し、そもそもバカンス中は閉鎖してしまう。経済自体がストップするので、専門職や管理職でもちゃんと休むことができる。
フランス人にとって仕事は人生の一部にしかすぎないが、だからといって仕事に対して不真面目というわけではない。
バカンスでしっかり休むことによって、仕事へのエネルギーも充電されるのだ。
2016年のOECDによる労働生産性の調査では、フランスは一人当たり104,345ドルで加盟諸国のなかで8位。
一方日本は、81,777ドルで21位だ。
フランス人のほうが日本人よりも生産能力が高いということだが、たぶんこれは能力の問題ではないだろう。
どんな人間だって疲れていたらパフォーマンスが低下する。一方しっかり休んで気力が充実していたら力が発揮できる。
フランス人が日本人よりも生産性が高いのは、しっかり休んでいるからだ。
逆に日本人の生産性が低いのは、サービス残業や休日出勤などによって生活のメリハリが失われ、疲れている状態で働いているからだ。
5 日本は社会全体で変わる必要がある
フランスではバカンスのための社会的インフラが整っている。
安価で長期滞在できる民宿や別荘、キャンプ場が各地にある。
低所得者層には、バカンス用の交通費や滞在費が公的に扶助される。
バカンスが取得される夏には、役所や企業、工場、商店すべてが休眠してしまうのでまともな生活を送るのが大変になる。
それでもかまわないと多くのフランス人が考えているからこそ、バカンスが文化として根付いている。
冒頭にも書いた通り、企業は時給制で働く人の生活を保障してくれないので、嫌でもGW中に働くことになる。
日本人の多くがGWの10連休を歓迎しないのは、働きたいからではないだろう。
働かざるをえないから歓迎しないのだ。
この前経済雑誌を読んでいたら、GWの10連休なんてもってのほかだという主張をす る記事があった。小泉元首相の秘書だった飯島勲が執筆した記事である。
時給制で働く非正規雇用の人は、その期間中働けないから手取りが少なくなる。そういう人たちの生活はどうなる?彼らはもっと働かないと生活していけないのだから、GWの10連休は論外だという主張だった。
え?
この人には、休暇中の給料を保障してあげようという発想はないのだろうか?
まぁ日本の政治家や資本家にはそういう発想がないから、みんなへとへとになって働くんだろう。
日本では有給を取得するのが困難だし、長期休暇なんてもってのほかだ。
経済は需要と供給のバランスで決まることを考えると、消費者が多くのサービスを求めれば、供給する側は当然余計に働かなければならない。
コンビニの24時間開けておく問題も、宅急便の人手不足の問題も、消費者が過剰なサービスを求めるからこうなっている。
どんなに政府がプレミアムフライデーだとか働き方改革だとか言ったところで、消費者が過剰なサービスを期待し続ける限り、問題が解決することはない。
日本は自分の首を自分でしめているように見える。
労働者だけでなく、消費者も変わらなければいけない。
6 まとめ
バカンス中のフランス人が発狂しないのは、企業や社会がバカンス中の生活を保障してくれるからだ。管理職だろうと労働者だろうと、バカンスを取得する権利を認められ、ちゃんと休ませてくれる。
労働生産性のことを考えれば、企業や社会が日本人をもっと休ませたほうがいいことは明白だ。
そして、消費者が過剰なサービスを期待しないこと。
労働者と消費者、同時に変わらないと働き方改革は成功しない。
参考論文