『ノマドランド』観てむしろ絶望したんだけど

 

  『ノマドランド』を観た。

 

 2021年のアカデミー賞受賞作。前々から観たかった作品でU-NEXTにて配信されていたので視聴した。U-NEXTの見どころで、車上生活を送る女性を通して、現代を生きる希望を描いたロードムービーとあったんだが、観ててむしろ絶望したんだけど。

 

 主人公のファーンは夫を亡くし、2008年の金融危機で職を失い、バンに荷物を詰め込んで旅に出る。全国各地で短期労働をしながら車上生活を送る。その土地その土地で、同じようにノマドライフを送る人たちと交流を重ね、あちこちを放浪する、というのがおおまかなストーリー。

 

 ファーンの醸し出す雰囲気、作品の全体的な色調などから、アメリカという国でノマドライフを送ることの厳しさを自分は感じた。この作品を観て、生きる希望というよりはむしろ絶望を感じたのは自分だけだろうか。

 作品の終盤、旅先で出会った仲間に一緒に自分の家族と住まないかと誘われ、彼の家族のもとに泊まるんだが、結局その家ではなく自分のバンで一夜を明かす。その後、海岸に向かうんだが、僕は彼女がそのまま海に飛びこん自殺するんじゃないかと思った。アメリカという国で高齢者一人がああいう生活を送ることの過酷さがにじみ出ていた。

 

 そういうふうに感じたのは、物語が進むにつれてファーンがタバコを吸う頻度が多くなっていったからだ。物語の最初のほうでは、あまりタバコを吸っていなかったような気がする。作品が進むにつれて、つまり車上生活が長くなるにつれて、高齢の女性が一人で車のなかで寝起きする生活のしんどさが深くなり、タバコによってしばしばその現実から逃れようとしているふうに感じた。

 

 

 どうしてノマド「ランド」というタイトルにしたかも気になった。なぜ「ノマドライフ」ではなく、「ノマドランド」なのか。

 

 それはやはりアメリカという国の土地柄を反映しているからではないか。

 あの国は自由だから高齢の女性が一人で車上生活を送っていてもなんの違和感も抱かれない。やっぱり自由の国なのだ。日本で、高齢の女性が一人でバンを運転してノマドライフを送っているなんて光景はまずありえない。

 そうやってファーン含め、高齢女性や男性がバンを運転して車上生活を送っているわけだが、「自分の人生で自由にやってんだから自分で責任を持てよ」というアメリカの突き放したメッセージが意図されているように感じた。そこにアメリカというランドの過酷さを感じる。

 

 自分の知り合いに、30歳を前にアメリカに渡り40年近くアメリカで暮らしていた人がいるが、「アメリカという国は高齢者にとってとても厳しい国だよ」と話していた。アメリカはとても自由な国で、若者にとってはチャンスがたくさんあるすばらしい国だが、高齢者にとっては過酷なとても生きづらい国らしい。結局、彼は70歳にして日本に帰ってきて生活している。

 

 

 そういう話を聞いていたから『ノマドランド』を観ていると絶望を感じた。

 作品としては時々退屈することもあったけど、興味深い映画だった。なにより、主演のフランシス・マクド―マンドがすごい。高齢ノマドワーカーの哀愁や喪失感が彼女の演技から如実につたわった。鑑賞後、彼女を検索すると、映画の中の彼女とまったく雰囲気が違うので、さすがさまざまな賞を受賞する役者だなと思った。

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