読んだ本の感想

電通といえば誰もが知る悪名高い広告の企業で、でも大企業だから就活生に人気がある企業でもある。

このシリーズは、社会の底辺で働くうだつの上がらない労働者(でも本にできるほどの観察眼や記憶力を持つ才能ある人)の語りが主だったのに、今回は電通マンが主人公だから気になって読んでみた。

主人公の福永さんは相当優秀な人間らしい。電通は基本コネ入社らしいが、この方は違う。でもおそらく、この人は学生時代にアルバイトで世話になっていた業界人に推されて電通に入社できたんだと思う。しかしそれは他の就活生と違って親の七光りによるものではなく、自分で勝ち取ったコネなんだからすごい。

Jリーグの一件はすごいなと思った。電通マンとしては一流の仕事人だと思った。一方で、電通の仕事は、ブルシット・ジョブだなと思った。電通の仕事は、介護や医療などと違って、はっきりいって社会からなくなってもかまわないものだが、なぜこのような職種の人間が大金をもらい、エッセンシャルワーカーは薄給で激務になるのか、本当におかしいかぎりである。

電通は過労死を引き起こす悪名高い企業だ。でも、電通の肩を持つわけではないけど、世の中には延々と働いていたい人間ももちろんいるわけで、そうした人間までも法律で一括りに縛るのはおかしいことだと感じた。電通には、ひたすら働いていたい優秀な陽キャがたくさん集まっているはずで、そうした人間からすれば労働法の改正は足かせである。働きたい人間には一方でひたすら働かせてあげられる仕組みもある方が社会としてはむしろ健全であるとも思った。

にしても、本の最後十数ページから始まる福永さんの転落ぷりはなかなかである。電通で働いていたにも関わらずである。しかも、福永さんが何かやらかしたわけではないのに、そこからの転落っぷりがかわいそうであった。

 

これもメガバンクというエリートサラリーマンが主人公。最近ユーネクストで『半沢直樹』を一気観したので、現実も同じなのかなと思って読んでみた。

目黒さんが勤めるのは、おそらく世間ではシステム障害をしょっちゅう起こしているみずほ銀行だと思われる。事実は小説より奇なりとはいうが、まぁ本当にそうなのかもしれない。

半沢直樹の銀行でも旧銀行どうしの派閥争いがあったが、みずほ銀行でも旧銀行どうしのマウントの取り合いがあったようだ。顧客は自分の出世のための踏み台でしかなく、嫌いな同僚は根回しして蹴落とす。だから、顧客思いの銀行員は実は平社員のほうに多いのかもしれない。もちろん、半沢直樹のように、不正を犯す同僚を叩き潰しながら顧客のために奔走し出世する人間もいるだろうけど。

一番滑稽なのは、大規模なシステム開発を行っていながら、誰もそれを理解していないがために、システム障害が起こったとき何が起こったのかさっぱり理解していないこと。誰も理解していないから、会議を行ってもどうすればいいのか解決策が出てこない。時間の無駄である。

でもこれはおそらくあらゆる分野で起きている。仕事ができないのにごますりは得意だから出世する人間がポストを占める。USBも知らない政治家がサイバーセキュリティを担当するみたいな。

上の電通の件でもそうだが、同僚や上司との相性一つで簡単に地方や閑職に飛ばされるのは、なんだかなーと思った。半沢直樹に出てくる大和田常務の「上司の責任は部下の責任、部下の手柄は上司の手柄」という言葉は、本を読むとそのとおりなんだと思わされた。こういう世界ではまさに運も実力のうちらしい。

 

この人は電力メーターを確認する仕事をしていた。メーターを確認するだけのシンプルな仕事だが、暑い日、雨の日、雪の日は大変だ。

オートロックマンションの話がしょっちゅう出てくる。メーターを確認するのに、中に入らないといけないが入れない。こんなん分かってることなんだから、メーター検針員が入れるような仕組みにしておくのが普通だと思うのだが。

電気メーターはわかりにくいところに設置してあるところもある。それを検針員どうしが情報を引き継ぎできるようにしてあれば効率が良くなるのに、会社がそうしないと著者が愚痴をこぼしている。こういう明らかな改善策をなぜ会社は実施しないのだろう。まぁ面倒くさいんだろう、検針の仕事は業務委託だから自分らで勝手にやれという感じだろうか。

新しくやってきた課長に目をつけられたせいで、著者は10年やってきたこの仕事の契約を更新されずクビになった。なんだかなー、このシリーズ、だいたいそうなんだが、上司との相性が悪かったせいでやめさせられたりしている。仕事でミスしたわけでもないのに、上司に嫌われて飛ばされたりしている。不憫でならない。上司や人事は、人の人生をなんだと思っているのだろう。

このシリーズを読んでいると、自分は仕事においてかなり恵まれているのだと思わされる。嫌な人間はもちろんいたけれど、本に出てくるようなクソ野郎とは出会ったことがない。彼らの運が悪いせいだろうか。とはいえ、こうした経験をネタに昇華して本にしてしまうのだから、強かではある。多分読む人が読めば、これはあいつが書いたんだなと分かるだろう。ある意味、復讐をしているのかもしれない。

 

面白い。

この本は、平野啓一郎の『ある男』と似ているなぁと思いながら読んだ。

主人公の親戚が婚約することになったが、結婚する直前に失踪する。親戚は、刑事の主人公に探してくれと頼み込んでくる。休職中だった主人公が探し始めると、失踪した婚約者が実は他人の戸籍を乗っ取った女だったことが分かる。

この本では、自己破産のことも詳細に描かれている。マンガ『新宿スワン』でも金貸しのことが描かれている。どこかで借りたら、そこに返済するために別のところで借りる。そしてそこに返済するためにさらに別のところで借りる。そうして雪だるま式に借金は増えていく。実は、金貸しはグルで、どうしようもなくなった女は最後風俗に飛ばされるというオチ。薬物と同じで、手を出したら終わりなのだ。

火車』に出てくる弁護士は語る。昔は、金がない人間は一生懸命稼ぐか諦めるかだった。しかし今はクレジットカードという錬金術がある。今金がなくても金を手にすることができる。

この物語はだいぶ前のものだからクレジットカードでとまっているが、今はもうスマホの時代である。もっと恐ろしいことになっている。クレジットカードはまだ、審査があるし子どもには作れない。スマホは違う、簡単にゲームで課金して莫大な金を請求されるなんてことが起こる。

今は昔とは比べ物にならないほど落とし穴がたくさんあって、しかもそれは巧妙に隠されているからいつの間にか気づかずはまってしまうということが起こる。有名人を騙った投資詐欺やロマンス詐欺。詐欺だらけである。AIがさらに進歩すればすべての人間が騙される時代が訪れるだろう。というか、騙されていることにすら気づけない人間であふれる時代があと数年で訪れるだろう。

法律はいつも後追いだから、結局個人が自己防衛するしかない。