読んだ本の感想

面白かった。

建設現場の入り口にヤクザが車を停めて妨害をする、その車をどけてもらうという「サバキ」の仕事を建設会社から請負った主人公が、そこからヤクザどうしの揉め事に巻き込まれていくという話。

総会屋にしても、この小説の揉め事にしてもそうだが、ヤクザってのは重箱の隅をつつくような金儲けをするなぁと思った。この小説は、産廃埋め立て場をめぐってのヤクザどうしの争いが描かれている。ゴミというのは絶対出るものだから、ヤクザがそこに目をつけるのは当然といえば当然だ。人間も埋め立てられるから都合もいい。

黒川博行は『後妻業』という小説で知った。この小説が出されてすぐに、紀州ドン・ファンが毒殺されたということで、まさに予言的小説だった。人間のどす黒い部分が、これでもかというくらい描かれている。

本当にまぁ、金儲けのためならあくどいことを平気でやる人間てのは、遠くで見てる分にはいいが、近くにいると殺してやりたくなる。一人、どうしょうもない人間がいて、たまたまそいつの子ども時代の通知表を見たが、いいことは一つも書かれていなかった。そして、本当にガキみたいなことを大人になってからも平気でやっている。ああいうのはどうやってあの年まで生きてきたのか、不思議である。ニュースでも、50すぎのいいおっさんがスポーツカーでめちゃくちゃな運転して事故起こして逃げたりしているのを見るが、ああいうのがこれまで一体どうやって生きてきたのか気になる。

 

『日本の気配』

武田砂鉄のコラムか何かを、なんかの雑誌でたまに見かけて、かゆいところに手が届くかのような、自分も含めてみんながなんとなく思っていることをうまく言語化してくれているから印象に残る。

この本の大半は政治のことで、批判だけ綴られているから、ちょっと食傷気味になった。最後の章の、コミュニケーション能力の話は、面白く読めた。信号待ちの数分にコンビニ入って雑誌読んで、青になる前にコンビニを出るのがルーティンらしいが、迷惑な人間だなと思う。毎日行くならたまには何か買ってやれよ。それでいてちゃっかり、何も買わない、信号待ちの数分だけ雑誌を読む著者に、最初は「ありがとうございました」と言っていた店員もある時言わなくなり、逆にある店員は唐突に「ありがとうございました」と言うようになったとか、コラムのネタにしている。嫌なヤツ。でも、こういう嫌なヤツだからこそ、こういうネタが書けるんだなとも思う。

 

リベラルアーツ、教養が社会で求められている。コンサルタント業などを営む著者が、様々な識者とリベラルアーツについて対談したものが収録されている。 

研究者や漫画家、僧侶など、様々な分野の識者と対談しているが、内容がビジネスの枠での話になりがちで、著者がビジネスパーソンだからなのだろうか。

大ざっぱにとらえれば、結局ビジネスという枠のなかで必要とされる教養みたいな、ん?それは、教養なんですかねとツッコみたくなる。必要とされるリーダーとか組織のありかたとか、社会の発展のために活かされる教養。ひねくれている自分からすれば、教養というのは自分を縛り付けるシステムから自由になるための技術なのに、それがビジネスのなかで語られると、その技術はシステムを拡大再生産させるための技術にすぎなくなってしまわないのかと思ってしまう。

 

そういう意味でいけば、同じ教養をテーマにしていても、上の本は山口周の本とは違う。

この本もいろんな分野の識者を迎えて対談したものを収録している。

著者の一人でもある深井はコテンラジオで知っていた。初めて聴いたときは、声の感じからして若いのに、すらすらと世界史を分かりやすく、そして深く、体系的に語っているから、「うわーこの人、すげぇな」と度肝を抜かれた。実際、まだ30代である。

この人も経営者だったりコンサルタントではあるのだが、ビジネスをうまくやるための教養という体ではないので、個人的には違和感なく話が入ってくる。

どの対談も興味深かったが、本郷和人の歴史の話は面白かった。歴史の研究者は、事実のみに即するか、事実のあいだを想像で埋めてストーリーにするかで二分される。出てきた史料に書かれていることを、ただ羅列していっても歴史研究者と名乗れるが、本郷はそうではなく、そのあいだを埋めてストーリーとして提示すべきだと言う。ストーリーとして提示できる創造性が研究者には必要だと説く。

歴史を意味するヒストリーには、物語という意味がある、ということは歴史は本郷の言うように、ストーリーとして提示されるべきだとは思う。もちろん、ミスリードを生む歴史が語られる可能性があるわけで、政治家がそれを都合よく引用するという懸念はあるが。

にしても、深井の、視点が増えるとオプションが増え、オプションが増えると決断ができるというのは納得できないな。決断ができると迷いがなくなり、現代の混迷から抜け出せるというのも納得できないな。そんな簡単なわけないし、ミスチルはいろんな角度から眺めてむしろ迷ったみたいな歌を歌ってたはずだし。