昨日の金曜ロードショーで『君たちはどう生きるか』を観た。
この作品を観たのは初めてで、なんだか村上春樹の小説みたいだなと思った。マジック・リアリズムというのか、現実を壁抜けして異世界に行き、そこで何かを行って、また現実に戻ってくるという構造が、村上春樹の小説と全く同じだなと思った。
『君たちはどう生きるか』では、家の庭のはずれにある大伯父の塔が壁抜けスポットになっていて、青サギがそこへ導く存在となっている。壁抜けした世界はどうやら、現実の「下」にある世界のようで、そこへ行った夏子さんを主人公の真人が連れ戻しに行く。そこは死の世界でありながら、ワラワラというこれから現実で人へと生まれ落ちる前の存在もいて、現実と下の世界は循環しあっているようにみえる。
この「下」というのも極めて村上春樹的で、上でも横でもないのは、「下」は心のいわば無意識の領域を示すからだと思う。無意識の領域は、夢や神話の世界と同じだから、ペリカンが支配していたり、真人の母であるヒミが真人と同じくらいの年齢で真人と同時に存在しているのは普通のことである。夢が荒唐無稽であるように、「下」の世界もまた荒唐無稽なのである。
ネットやらなんやらの反応をみていると、「何がいいたいのか分からん」とか「何だこれ」という反応が多くて、まぁそのとおりなんだけど、奇怪な夢をみた朝に「なんだったんだ、あの変な夢は」と思うのといっしょで、われわれは単に宮崎駿の奇怪な夢を観させられていたのである。
村上春樹は自身の小説を「まるごとそのまま受け取ってくれたら」とどこかで話していたけど、「君たちはどう生きるか」もそれと同じで、細部がどうとか意味不明とかではなく、まるごとそのまま受け取るべきなんだと思う。
よくよく考えてみれば、『となりのトトロ』にしても『千と千尋の神隠し』にしても、主人公たちは森のトンネルや古びたトンネルを抜けて異世界に行き、そこでなにがしかをしてまた戻ってくるという構造をなしている。物語の構造としては昔からそんなに変わっていないのかもしれない。
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