なぜ芥川賞を受賞したのか不思議な作品『しんせかい』

現在、芥川賞受賞作を文字通り片っ端から読んでいる。

新しいほうから読んでいて昨日、山下澄人の『しんせかい』を読み終わった。

 

読み終わってまず、なぜこの作品は芥川賞を受賞したのだろうと不思議に思った。

芥川賞といえば、小説に送られる賞のなかでももっとも有名で権威ある賞であり、それはつまりこの賞を受賞することはすごい!!!ということです!片っ端から読んでる他の作品は、賞を受賞するのは納得というような作品ばかりだが、この作品は「ん?」てな感じになった。

 

まずね、そこらへんのちょっと文章書くのがうまい小学生が書いてる作文のような感じの文章なのよ。特にオッと思わせる言い回しがあるわけでもなく、レトリックが優れているわけでもない。奇想天外な展開もないし、強烈な登場人物もいない。いないくせに、個性薄めの登場人物がたくさんいる。あと、たまに主語が分からん。

 

この作品では、若かりしころの山下澄人青年が参加した北海道の富良野にある倉本聰監督が運営する俳優・脚本家養成塾での出来事が描かれている。この塾で塾生は基本的に2年間共同生活を送りながら、倉本監督の指導を受けながら俳優や脚本家を目指す。

2年間だから、2年間の共同生活が描かれているのかと思いきや、2年目はわずか一行で終わっているのがウケた。なんか、書くのがめんどくさくなったんじゃないかと思わせるような書き方がウケた。

 

とはいえ不思議なのが、読ませるんだよな。

文体が優れているわけではなく、内容が優れているわけでもない。何がいいのか分からんのに、先をぐんぐん読ませるような作品だった。なんていうのかな、天然でボケたおす才能だけで生きてるお笑い芸人的な?剛速球を投げるわけでないし、すごい変化球もないし、コントロールがすばらしいわけでもないのに、飄々と抑えてしまう先発ピッチャー的な?こういう感じを受けたのは自分だけではないようで、芥川賞の選考委員もキツネにつままれたような、なにがいいのか分からんのに芥川賞に推してしまった人もいたようだ。

 

面白いのが、結局こういう感じの作品のほうが心にいつまでも残り続けるということ。

賞を受賞することよりも、ずっと先まで残っている作品のほうが価値ある作品だと思う。そういう意味でいけば、『しんせかい』はこれまでに読んでいる芥川賞作品のなかでもっともレベルの低い作品だが、もっとも価値ある作品だと個人的に思った。