『脳はみんな病んでいる』を読んで自分の脳も病んでいることを理解した

 

脳はみんな病んでいる

脳はみんな病んでいる

 

 

 前々から読みたかった一冊。得られるものが多い一冊だった。

 

 本書は脳科学者の池谷先生と、テレビでもおなじみの中村うさぎさんの対談本。

二人はこの本のなかで、高機能自閉スペクトラム症と診断されるが、池谷さんや中村さんの特徴が自分と似ているところも多く、「あれ、自分も高機能自閉スペクトラム症なんやろうか」と思った。

 

 たとえば池谷さんは、街で知人を遠くに見つけたら、はちあわせしないように別の道を選んだりする。はちあわせしてあいさつしたり会話したりするのが嫌だから。

 

 これやるわー。めんどうなんだよねぇ。何話していいか分からないし。典型的なコミュ障。

 

 他にも、池谷さんは学校からの帰り道がいっしょになりそうなときは、わざと5分くらい遅れて学校から出る。結局一人でいることを好む。

 

 これもやる。一人でポケ―っと考え事をしながら歩くの楽しいんですよね。誰かといっしょだとそれができないし、知り合い程度の人だと沈黙に陥るのを恐れるから頑張って会話しようとして疲れるっていう。

 

 しかしもともと自分は内向的ではなく、むしろ友達といっしょになってわぁわぁ騒ぐタイプだった。一人でいるのを好むようになったのは大学に入ってしばらくしてのころからだ。

 

 本書にはトキソプラズマというネコに寄生する虫の話が出てくるのだが、トキソプラズマ統合失調症の原因になることもあるらしい。トキソプラズマはネコを宿主にしたいため、どうにかしてネコに寄生しようとする。不思議なことに、トキソプラズマに寄生されたネズミは、天敵であるはずのネコに近づいていくという。つまり、トキソプラズマがネズミの脳を操ってネコに向かわせるのである。 

 

 この件を読んでいて、合点がいった。

 僕は子どものころネコが嫌いだったのに、いつのまにかネコをかわいがるようになっていた。ノラ猫を見たらついつい近寄ってしまう。自分は明らかにトキソプラズマに寄生されているようだ。ネコに近づくようになっていったのは、大学に入る前後からだから、たぶんこの時期にトキソプラズマに感染したのだろう。で、このあたりから内向的になっていった。

 トキソプラズマが自分の行動や性格を変えてしまったのかもしれない。

 

 

 あと、へぇと思ったのは、ボトックス注射の件。

 美容整形で使われるボトックスは、ボツリヌス毒素という毒を注射する。この毒が筋肉の働きを抑え、それによってアゴが細くなっていく。おでこに打てばしわ防止になる。

 しかし打ち過ぎれば当然毒で、眉が上がらなくなるために表情が乏しくなる。芸能人で、笑顔なのに目が笑っていない人は、おでこにボトックス注射を打ち過ぎた人だということですね。

 

 

 本書でもっとも勉強になったのは、記憶が人格を形成するという話。

 記憶障害が起きて、特定の記憶が抜け落ちると、残った情報につじつまを合わせるようにべつの人を演じるという。

 

 この件を読んでいて、脳はちょうど冷蔵庫みたいなものかなと思った。

 精神は脳という冷蔵庫から記憶という材料を引き出す。その材料を料理して人格を作り上げるわけだ。

 人は場面や状況によって人格を使い分ける。あるときは夫として、あるときは父親として、またあるときは上司として適切な人格を演じる。その場その場で記憶を参照し、場面にあった人格をつくりあげる。

 

 しかし、認知症のような記憶障害が起こると、記憶という材料が足りないために、その場に合った人格が形成できなくなる。だからいつもと違う人格が形成され、他者は困惑してしまうということになる。

 中村うさぎさんのお母さんは認知症で、自分で隠したお金なのにそのことを忘れ、夫に「私のお金を盗んだでしょ」と当たるらしい。隠したという記憶が抜け落ちているわけだが、お金がないという事実に対してつじつまを合わせるために、脳が「夫が盗んだ」というウソをでっちあげるわけだ。

 

 たしかベルクソンだったと思うが、記憶はなくならないと言っていた。

 だから認知症は、記憶がなくなる病気ではなく、記憶にアクセスできなくなる病気なのだ。冷凍されていてすぐには料理に使えないみたいな状況なんだと思う。

 

 

 他にもいろいろと面白い話が載っていたが、書くのが面倒になってきた。

 脳というのは、本当に不思議な臓器ですな。