未和 NHK記者はなぜ過労死したのか

 

未和 NHK記者はなぜ過労死したのか

未和 NHK記者はなぜ過労死したのか

 

 

 読みたかった本。

 

 亡くなった佐戸未和さんは2013年に過労死されたのだけど、このことをNHKが公表するまでに4年もかかった。

 NHKは、電通の高橋まつりさんの過労自殺ブラック企業大賞の模様を報道しているにも関わらず、佐戸さんの過労死のことを隠蔽しようとした。

 佐戸さんの件で、NHKブラック企業大賞に選ばれたが、そのことは放送しないという悪質ぶり。これのどこが「公正・中立」なのだろう?

 

企業の風土

 NHKは選挙と災害の二つには特に力を入れている。佐戸さんは東京都議選参院選の取材のために、過酷な労働を強いられていた。亡くなる直前の時間外労働は209時間にものぼった。これは過労死ラインとされている80時間を大きく上回る。

 

 佐戸さんはNHKの報道記者としてずいぶん有能だったことが本書から分かる。

 徹底した取材によって多くの実績をあげてこられたが、その実績をあげるための努力が体に大きな負担となっていた。そのような努力は「いいリポートをしたい」という本人の熱心さもあるが、そうせざるを得ない環境を作っている企業の風土も影響している。

 

 たとえば、質のいい情報をとってくるためには、警察や役場の人と信頼関係を結ぶ必要がある。いい情報をとるために、いっしょに酒の席を囲むこともある。いっしょに酒を飲みながら、警察から重要な情報を得るわけだが、酔っぱらうわけにはいかないのでトイレで喉に指をつっこんで吐くこともあったという。

 

隠蔽体質

 2013年に未和さんが過労死して、NHKが公表したのは2017年。

 4年たってようやく公表された。なぜ、そんなに時間がかかったのか。

 NHKは「遺族が公表を望んでいなかったから」と回答した。

 しかし未和さんの家族は、当初から公表されることを望んでいた。

 

 NHKは社員が過労死したことをひたすら隠そうとし、遺族の意向を無視し続けたため、遺族側が記者会見を開き、ようやく未和さんの過労死が明らかになった。

 驚くべきことに、NHKの番組で過労死や長時間労働の問題を扱っていた解説員までもが、未和さんの過労死の事実を知らなかったのである。

 

 

感想

 未和さんは記者の仕事が好きで、一生懸命に取り組んでいた。いいリポートをしたいという一心で、自然と長時間労働になっていった。

 一方で、選挙のときはとにかく成果を上げなければならないというNHKの圧力が、社員の長時間労働を助長していた。

 

 組織は社員なしには存在しないのだから、どんなに仕事熱心な社員でも一定時間休息を与えなければならないだろう。社員に成果を求めすぎてつぶしてしまったら元も子もない。

 しかし、ほとんどの企業が社員を休ませるのではなく、むしろ長時間労働をさせている。それを取り締まらなければならない政府も、法律を変えて長時間労働をさせられる制度を作っている。恐ろしいことだ。

 

 未和さんはNHKが第一希望の就職先で見事就職することができた。そして仕事に一生懸命な優秀な記者だった。

 未和さんが過労死して、彼女がNHKにとって不都合な存在になると、過労死した事実を隠蔽しようとした。組織にとって不都合な存在は平気で切り捨てるのだ。

 

 著者の尾崎さんはNHKの番組制作にも携わる人なのだが、取材を進めていくなかで、NHKにとって不都合な情報を書こうとしていることを知られると、NHKから仕事の依頼がこなくなったと書いている。

 そしてこんなことを書いている。

 

私はこう受け止めました。天国にいる未和さんが、自分を死へと追いつめたものの正体を、こんな形で私に伝えてくれたのかもしれない、と。その正体とは、普段意識されることがない、しかし、いざというときに圧倒的な力を発揮してしまうもの。自分たちを守ってくれると思っていたら、いつのまにか一人ひとりを分断し、従順さを競わせるだけの存在になっていたもの。そうです、組織です。 

 

 組織の本質をついた言葉だと思う。

 

 このような本がもっと社会に出るべきだと思う。