本谷有希子『異類婚姻譚』は現代のおとぎ話だった

芥川賞受賞作『異類婚姻譚』を読み終わった。

 

おとぎ話には、不思議さのなかにちょっとした悲しみや哀れみ、畏れが混じっている感じがする。『異類婚姻譚』はちょうどそんな感じだった。どこにでもある淡々とした日常のなかに、少しずつ違和感が染み出してきて、徐々にホラーさがあぶりだされてきて、でも最後はなんかほんわかとした感じで終わった。

 

おおざっぱに要約すれば、夫婦の顔が徐々に似てきて、そしてお互いに顔が崩れてきて溶け合って、でもすんでのところで妻が拒否したら夫だけ花になっちゃった話。

同じ釜の飯を食うと似るんだろうかね、自分には弟がいて、以前子どものときの自分の写真を見たらそれが自分なのか弟なのかが分からなくて「うわっ!」と驚いた経験がある。でもその後自分と弟はまったく異なる道を歩んで、今はもうまったく顔が違っている。この前父が弟とその嫁の写真を見せてきたら、あまりに似ていてこれまた驚いた。やっぱり同じ釜の飯を食うと似るんだろうか。

 

おとぎ話って、結局この話は一体何が言いたかったのだろうかというようなものばかりなような気がする。桃太郎や浦島太郎の話って一体なにがいいたいのかよく分からない。桃太郎は鬼退治に行って金銀財宝を持ってかえってきた話だと記憶しているが、これは勧善懲悪の話だったか?でも、鬼って何か悪いことしてたっけな。浦島太郎はもっとよく分からん話だ。でもおとぎ話ってそれでよくて、べつにそこから何か教訓を引き出さなきゃいけないわけでもない。物語をそのまままるごと受け取ればいいのだ。『異類婚姻譚』もそんな感じで全的に受け取った。

 

夫婦やカップルが似てくるっていうのはよく聞く話で、『異類婚姻譚』はそれを突き進んでいく。だんだん似てきて、顔が崩れ始めお互いに溶け合っていく。それはさながら二対のヘビがお互いのしっぽから食べ合って、頭と頭だけのボールになって、最後どっちもキレイに食べられて消えるようだ。主人公夫婦はそういうプロセスを突き進んでいく。ある夫婦は、自分たちのあいだに石を置いたことで事なきをえたという。主人公の妻は、夫に毎日揚げたての天ぷらを食わされて、顔が崩れてきて、夫に取り込まれそうになる。ここらへんの描写はそこらへんのホラー小説を彷彿とさせた。 

 

現在芥川賞受賞作を新しいほうから片っ端に読んでいて、こういう類の物語はなかったから新鮮で面白かった。