働きアリの研究で有名な著者。
実は働きアリの世界にもニートはいるというなかなか面白い事実を教えてくれる人です。
本書は、働きアリやハチの社会と人間の社会を比べながら、組織とはどういうものなのかということを探っていくエッセイ。とても読みやすい一冊。
そもそもわれわれはなぜ群れるのか?
人間関係で病んでいる人はたくさんいるし、僕も人付き合いはめんどくせーと思ってる。それでも人との関係のなかで生きていかないといけない。
なぜ動物は群れて社会をつくるのか?
それはもちろん、単独で生きるより、社会をつくって生きるほうがメリットがあるからだ。
他者と関わることで生まれるコストよりも、協力することで得られるメリットのほうが多いから動物は社会をつくるのだ。
協力して社会をつくることで利益を得る。
しかし当然裏切りは生まれる。社会の恩恵を受けつつも、払わないといけないコストを払わない裏切り者は当然出てくる。税金を払わないのに、公共サービスは受ける輩とかね。
面白いのはアリやハチの社会でも裏切り者が出てくること。社会があるところには必ず裏切り者がいるわけですね。
個人と組織。
個人と組織、双方に利益があるうちは齟齬は生まれない。しかし、個人の利益と組織の利益が一致しない場合は不幸になる。
高度経済成長期は、個人も会社(組織)も、双方に利益があった。
会社はどんどん儲かるし、それに応じて個人の所得も増えていった。
しかしグローバル経済のなかで、会社はどんどん拡大しようとしているが、個人にそれほど利益が還元されない。特に若者は低賃金で長時間労働をしている。能力のない人間は切り捨てられる。
組織は無駄を嫌い、ひたすら効率化をもくろむ。若者は使い捨てられ、足りない分は新たに補充しこき使う。こうしたブラック企業が日本にはたくさんある。
著者はアリの社会を紹介する。
アリの社会では3割はまったく働かない。一生働かないアリもいる。
しかし、実験でその働かないアリをすべて取り除いたら、それまで働いていたアリが働かなくなったという。逆に、働いていたアリを取り除いたら、それまで働いていなかったアリが働きだした!
アリの意志は確認のしようがないが、おそらくアリは、働きたくないから働かないというわけではないのだ。そうではなくて、「組織の論理」が働かないアリを作りだしているのだ。
みんながいっせいにがむしゃらに働いている場合、もし何か大変なことが起こった時それに対応できなくなる可能性がある。たとえば巣に天敵が訪れたとき、みんなががむしゃらに働いて疲れているので、天敵と戦えるアリがいない。そんなとき働いていないアリが立ち上がるのだ。
組織を長続きさせるためには、余裕がなければならない。
ブラック企業みたいに従業員すべてを猛烈に働かせて疲弊させる組織は、短期的には利益をあげられるかもしれないが、余裕がないので長続きしないのである。
この前新聞に、「ひきこもり大賞(うろ覚えです)」なるものの記事が載っていた。ひきこもりのつくった小説なり、論文なり、芸術作品などに賞を与えるらしい。その創設者の紹介がされていた。
ひきこもりは今では大きな社会問題になっている。社会のなかでは大きなコストだ。このままひきこもりが増えていくと、社会は滅びるだろう。
でも、アリの組織を参考にするなら、ひきこもりは決して悪ではないと思う。ブラック企業みたいなすべての人間が疲弊してがむしゃらに働いている組織よりも、ひきこもりがある程度いる組織のほうが、長続きするはずなのだ。
ひきこもりというのは、払うべきコスト(税金とか)を払っていないのだから裏切り行為をしている存在だけど、それでもひきこもりのまったくいない組織よりはいる組織のほうがましではないのか。
そんなことを本書を読みながら思った。
あと、著者は映画『2001年宇宙の旅』で、なぜ人工知能のHALが乗組員を殺したのか考えている。
それは、結局は「人間を守るためだった」ということではないかと言う。
アイザック・アシモフの考えたロボット三原則の一つ「人間に危害を加えてはならない」を破っているが、同時に、考えようによっては守っていることになる。将来の人工知能はHALのように「解釈」を行うようになるのだろうか。
何はともあれ本書は読みごたえのある面白い本だった。