若いころはモデル、今はモデルを撮る写真家。
華やかな世界に身を置き、一見ホームレスには見えない容貌の中年独身男性マークは、不法侵入したビルの屋上で寝起きしている。
僕は、普通とは違うレールを歩んでいる人を見ると、まぁええんちゃうかと肯定するタイプなんだけど、この人にはどうもうまく肯定できないところがあった。
なんでだろうなぁと考えてみたが、いまいちしっくりくるものがない。
普通とは違うことをしたいというのはほとんどが若者で、失敗しても取り返しがつく。でもこの人は映画撮影の時点ですでに52歳。もう取り返しのつかない域に達している。そこに悲哀を感じた。
本人は陽気にふるまっているが、ところどころで不安や苦悩を吐露している。そのギャップに、胸が苦しくなる。
この人はなまじ容姿がいいばかりに、モデルという華やかの世界を離れるのはプライドが許さなかったのだろう。故郷の田舎に帰れば、仲の良い母や兄弟がいるが、華やかなニューヨークにとどまり続けている。
僕も普通とは違うルートを歩んでしまっているから、もしかしたらこの人みたいになってしまうかもしれない。そのにおいに僕はおびえたから、人と違う人生を歩むこの人を肯定できなかったのかもしれない。
この映画を観る前に、新海誠監督の作品の『秒速5センチメートル』を観た。
同じ映画でも、まったくジャンルの違う作品なんだけど、過ぎてしまった時間というのは実はとてつもなく重たいもので、取りかえしがつかないものなんだということを、この二つの映画を観ていると強く感じた。
だからこそ今を大事に生きていきたいよねと言いたいところだが、その重みというのは、往々にして後からふとした瞬間に気付くものなのだ。残念ながら。
あぁ。