奇妙な死体のとんでもない事情

 

 

 

 いやー、不謹慎かもしれないけど、めちゃくちゃ面白かった。

 著者は法医学者。これまでに解剖してきた遺体を通して彼が見ている世界が分かりやすく描かれている。遺体についている傷痕から、その人が事故で亡くなったのか、それとも殺害されたのか探る。

 

 死人に口なしと言うけれど、死人の傷痕は多くを語っている。その声無き声を著者はすくい上げ、死者の無念をはらしている。

 

たとえば、傷口の縁にできる擦過痕(こすれた痕)から、どの方向から凶器が刺入したかが分かる。傷口の右側に擦過痕があれば、右側からスッと刺した傷だ。左側にあれば、左側から刺したものだろう。また、現場の血しぶきの飛び散り方から、どこで、どちら向きに刺されたかもわかる。こうした情報から、「この方向から犯人が右手で刺すのは、壁や家具が邪魔になって不可能。よって、犯人は左利きである」ということがわかったりするのだ。

 

 

 事実は小説より奇なり、というけれど、本書を読んでいるとドラマにでてくるような展開が本当にあるんだなぁと思った。

 著者は法医学者で、彼のもとには事件を疑う刑事がよく出入りするわけだが、一見事故に見えるものでも、解剖してみると事件であることが分かったりする。

 

 著者はバイク事故で亡くなった方の解剖をした。胃の底に腫れが見つかったものの、そのときは「心臓死」と記した。原因は不明。解剖後、心臓血、尿、胃内容を保管した。

 二年後、刑事が訪ねてきて、バイク事故で亡くなった方の情報はないかと聞いてきた。ある女が殺人事件で捕まったのだが、被害者の体内から青酸カリが検出されたのだ。刑事が調べると、その女のまわりからは不審な死を遂げる人が次々と出てきた。で、交通事故で亡くなった方はその女の元交際相手で、今回刑事がやってきたというわけだ。

 著者が、保管していた心臓血、尿、胃内容を調べると、なんと青酸カリが検出された。バイク事故で青酸カリ中毒を疑うはずもないから、著者も相当驚いたらしい。胃の底にあった腫れは青酸カリによるものだった。女は青酸カリを入れたカプセルを飲ませ、バイク事故を起こさせたのである。

 それまで女は刑事の追求をのらりくらりとかわしていたが、「手口は分かっている。カプセルだろう?」と尋ねた瞬間、ハッと表情が変わり堪忍したという。

 

 他にも、医療事故を起こした名医を追求した話や、ドラム缶に詰められて海の底で腐乱していた遺体の話など、刺戟的な話がたくさんあって興味深かった。

 

 人間のどろどろした部分を垣間見たような気がした。