『100円のコーラを1000円で売る方法』はマーケティングを知るのに最適の本だった

 

100円のコーラを1000円で売る方法

100円のコーラを1000円で売る方法

 

   

 タイトルに釣られて読んでみた。

 マーケティングを説明した本なんだけど、小説なのでとても読みやすい。もちろんマーケティングの専門用語がたくさん出てくるが、一つ一つの用語が分かりやすく解説してあるので、知識もないしマーケティングも知らない僕でもすんなり読めた。たぶん中学生でもすらすら読めると思う。

 

 勝気で自信家の主人公である宮前久美が、上司の与田からマーケティングの手法を学んでいくというストーリー。

 

 個人的にとっても面白く、印象に残ったのはキシリトールの件。

 今では歯科医おススメのキシリトールガムが売られているが、どうして歯科医がキシリトールガムをおススメするのか。

 だって虫歯を予防するキシリトールガムが売れれば、治療にくる患者が少なくなって歯科医は商売あがったりではないか。そんな商売敵を歯科医がおススメするはずがない!

 

 ではキシリトールガムをつくった会社はどのような戦略を練ったのか。

 それは発想を転換である。

 会社はキシリトールガムを売るために「予防歯科」という概念を導入した。

 キシリトールガムを通じて、虫歯にならないよう健康な歯を維持することも大事だという考えを世の中に浸透させたのである。

 

 それまで歯医者に来るのは虫歯を治療する患者だけだった。しかし虫歯を予防するという考えが広まったことで、健康な歯を維持するために歯医者に来る人たちも増えた。うちの師匠も虫歯はないけど、歯垢除去のために定期的に歯医者に通っている。

 虫歯になる人は全体の1割ほどだから、予防歯科という考えが広まるまでは、歯医者の顧客は全体の1割だった。一方、予防歯科では9割が顧客になる可能性がある。

 

 歯医者とキシリトールガムは、「予防歯科」という概念を広めるためにタッグを組んだ。歯医者は新たな顧客を獲得するために、キシリトールガムは歯医者のお墨付きを得て販売を促進するために。

 

 

 100円のコーラをどのようにして1000円で売るのか。

 同じコーラでも、ディスカウントストアでは数十円で買えるし、高級ホテルでは1000円で売られている。

 どうして同じものなのに値段が違うのか。

 

 それはサービスの違いだ。

 人は、同じものでも状況によって感じ方が違ってくる。家で食べるカップラーメンと山頂で食べるカップラーメンは、同じカップラーメンでも味が違う。

 これと同じで、高級ホテルで高価なグラスに注がれたコーラは、そこら辺の自販機で買って飲むコーラとは味が違うのだ。

 だからこそ人は、高級なホテルで1000円を出してコーラを飲むのである。

 

 この件を読んでいると、最近の消費の傾向が手に取るように分かる。

 現代人はモノを買わなくなっている一方、コトを買うようになっている。「モノより思い出」というわけだ。

 インスタグラムなんかはそれを体現している。タピオカに興味はなくても、タピオカをインスタにアップするために購入する人たちがたくさんいる。

 マーケティングを担当する人たちはそこらへんを熟知しているから、いかにして商品に「物語」を与えるか、戦略を練っている。

 

 ここらへんはボードリヤールの『消費社会の神話と構造』でも描かれている。

 人は絶え間ない記号の渦に飲み込まれ、終わりのない消費をひたすら繰り返しているのだ。

 

 ちなみに、『消費社会の神話と構造』を読んだ堤清二無印良品を創業した。

 無印という記号のない商品がまた、一個の記号となって消費されているというのは、何とも皮肉というか、消費社会の不思議さを物語っておりますな。

 

 ま、何にせよ、『100円のコーラを1000円で売る方法』は面白い本だった。