書評

最近読んだマンガや本の感想

日本のマンガってどうしてこう面白いものが多いんだろうなって考える。マンガ家って小説家ほど表にでてこない人が多いが、それってけっこう重要なことなんじゃないかと思う。鬼滅の刃とか呪術廻戦、ワンピースの作者をメディアで見かけることはない。進撃の…

國分功一郎 熊谷晋一郎『〈責任〉の生成』を読んだ感想

<責任>の生成ー中動態と当事者研究 作者:國分功一郎,熊谷晋一郎 新曜社 Amazon とても興味深い内容だった。 中動態と当事者研究をもとに、「意志」や「責任」の生成について考えた一冊。 この本で印象深く残っているのは、加害者の責任の芽生えに関するくだ…

ここ10日間くらいで読んだ本、漫画、観たアニメの感想

大雪で60センチくらい積もって何もできない、家から一歩も出ない日々が続いた。 家ではずっと本や漫画を読んだり、アニメを観たりして過ごした。充実した日々。まったく運動していないが、頭がパンパンに疲れたせいか毎日9時間から11時間寝ている。充実した…

真実はいつも一つ?熊野以素『九州大学生体解剖事件』感想

戦時中、アメリカの捕虜8人が九州大学医学部に運ばれる。九大医学部陣は、手術と称して実験解剖し殺害。著者の伯父鳥巣も実験に関わったとして裁判で死刑判決を受ける。鳥巣の妻蕗子は夫を救うために奔走し減刑を勝ち取る。そこまでのいきさつを描いた一冊。…

『ファスト教養 』と『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』

レジ―著『ファスト教養』を読み終わる。興味深い内容だった。 ファスト教養のファストとは、ファストフードのファストと同じで、陳腐な教養というような意味。 「楽しいから」「気分転換できるから」ではなく「ビジネスに役立てられるから(つまり、お金儲け…

村上龍『ストレンジ・デイズ』感想

何回目か分からないが読了。なんでだろうな、この本は特につきささる。他の村上作品も読んでて、彼の代表作は『希望の国のエクソダス』とか『限りなく透明に近いブルー』とか『コインロッカーベイビーズ』だと思うが、それよりもこの作品がつきささる。誰し…

ピストジャム『こんなにバイトして芸人つづけなあかんか』読んだ感想

新聞の「ひと」欄で紹介されていて、面白い人だなと思って読んでみた。 慶応卒業して芸人20年、いまだに売れる気配なし、バイト漬けの日々、しかし腐ってはいない、今でも売れると信じている。 これが早稲田卒業だと読んでなかった、早稲田ならこういうの、…

元石川県知事、ムスリム一家、バンライファ―を通してムラ社会を描く『裸のムラ』を観てきた 感想

姫路に行く用事があって、そのついでに大阪の十三にある第七芸術劇場まで足をのばして『裸のムラ』を観てきた。 www.youtube.com 五百旗頭監督の前作『はりぼて』がすごくいい映画で、『裸のムラ』もぜひ観たいと思い行ってきた。『裸のムラ』を放映している…

久しぶりに観ごたえのある面白い邦画『はりぼて』を観た

ときの人を紹介する新聞記事で、五百旗頭幸男さんという映画監督を知った。 石川県知事と、ムスリムのモスクを作った人、バンライフを送る人を通して、日本特有のムラ社会を描き出すドキュメンタリー映画を撮った監督。普段は、石川のテレビ局で働いている。…

マルクスの『資本論』解説本を読み漁った

このまえ図書館に行ったら『資本論』解説本が目についたので何冊か借りて読んだ。 武器としての「資本論」 作者:聡, 白井 東洋経済新報社 Amazon いま生きる「資本論」 (新潮文庫) 作者:優, 佐藤 新潮社 Amazon 人新世の「資本論」 (集英社新書) 作者:斎藤幸…

物事を深く考えるために『バカロレアの哲学 「思考の型」で自ら考え、書く』は最強の一冊

何気なく手に取ったがすばらしい内容の本だった。大学1年の時の自分に贈ってあげたい。 バカロレアの哲学 「思考の型」で自ら考え、書く 作者:坂本 尚志 日本実業出版社 Amazon 物事をちゃんと考えるとか、批判的に考えるとか、メディアリテラシーを身に着け…

千葉雅也『現代思想入門』脱構築で生きづらさを解体する

話題の新書『現代思想入門』を読み終わる。 現代思想入門 (講談社現代新書) 作者:千葉雅也 講談社 Amazon この人の著書『動きすぎてはいけない』『意味がない無意味』は難しくてよく分からなかったが、この『現代思想入門』は難解な現代思想をだいぶかみ砕い…

『恐い間取り』 怨念を浴び続ける人間はどうなるのか?

『恐い間取り』『恐い間取り2』を読み終わった。 事故物件怪談 恐い間取り 作者:松原 タニシ 二見書房 Amazon 事故物件怪談 恐い間取り : 2 作者:松原 タニシ 二見書房 Amazon 著者の松原タニシは事故物件に住みます芸人として活躍している。 テレビ番組の…

映画『メッセージ』 言語が持つ能力を考える

映画『メッセージ』を再鑑賞 メッセージ (字幕版) エイミー・アダムス Amazon ある日地球の12の地点に、ばかうけというか柿ピーというか、そんなかたちをした宇宙船が降り立つ。中にはイカみたいな宇宙人がいる。主人公のルイーズは言語学者で、軍の要請を受…

『正直不動産』を読んだらガンガン不動産の知識が身についていくよ

テレビドラマでやってるけどそっちのほうは見てなくて、マンガのほうを読んだらめちゃくちゃ面白いから読んでいる。8巻まで読んだ。 正直不動産(1) (ビッグコミックス) 作者:大谷アキラ,夏原武,水野光博 小学館 Amazon いやぁまじで面白い。 面白いうえに…

カレル・チャペック『山椒魚戦争』考察

カレル・チャペック『山椒魚戦争』を読み終わった。 山椒魚戦争 (岩波文庫) 作者:カレル チャペック 岩波書店 Amazon あらすじ ある島に山椒魚がたくさん住んでいて、船長がその島に上陸する。山椒魚には知性があってコミュニケーションがとれ、なおかつ人間…

嫌われた監督-落合博満は中日をどう変えたのか 感想

母親が職場の人におススメされるほどの本。なんでも、夜が更けてもページをめくる手が止まらないらしい。ここ数年母親が本を手にしている光景なんて見たことがないし、そもそも彼女は野球を見ないし中日や落合を知っているかも怪しい、そんな人間でさえ読み…

芸能人の自殺が相次いで『ノルウェイの森』を読みたくなった

コロナ禍になって芸能人や有名人の自殺が相次いで、つい最近も俳優や芸人が亡くなって、べつにファンでもないのだがやっぱりショックだった。そんなニュースを目にしていると、ふと村上春樹の『ノルウェイの森』を読みたくなって図書館から借りてきて読んだ…

村上春樹と河合隼雄の組織に関する話

村上春樹全作品1990~2000 7を読み終わる。 村上春樹全作品 1990~2000 第7巻 約束された場所で 村上春樹、河合隼雄に会いにいく 作者:村上 春樹 講談社 Amazon 『約束された場所で』には、村上春樹がオウム真理教の元信者をインタビューしたものが載っている…

誰だって望みさえすればエリック・ホッファーになれる

『エリックホッファー自伝』『これからのエリックホッファーのために』を読み終わった。 エリック・ホッファー自伝―構想された真実 作者:エリック ホッファー 作品社 Amazon これからのエリック・ホッファーのために 在野研究者の生と心得 作者:荒木優太 東…

砂川文次の芥川賞受賞作『ブラックボックス』を読んでクモの巣にひっかかったような気分になった

砂川文次の芥川賞受賞作『ブラックボックス』を読み終わった。 ブラックボックス 作者:砂川文次 講談社 Amazon 前半は自転車配達業の話で、後半は刑務所の中での話。 選考委員の一人が「現代のプロレタリアート作品」と評していたが、確かにそのとおりだと思…

エドウィン・アボット・アボット『フラットランド』を参考に「悪魔の存在」を考えてみる

エドウィン・アボット・アボットの『フラットランド』を読み終わった。 フラットランド たくさんの次元のものがたり (講談社選書メチエ) 作者:エドウィン・アボット・アボット 講談社 Amazon 副題にあるとおり、この物語は次元についてのお話で、フラットつ…

穴に落ちたことで日常がざらついていく芥川賞受賞作『穴』

小山田浩子の『穴』を読み終わった。 再読だったのだが、この作品のタイトルも、以前読んだことも忘れていた。しかし内容だけは頭に残っていた。読み始めて「あれ、これ読んだことあるわ」と思い出した。 穴(新潮文庫) 作者:小山田浩子 新潮社 Amazon 派遣…

科学の外側の世界を知る 『精神科医の悪魔祓い デーモンと闘いつづけた医学者の手記』

非常に興味深い一冊を読み終えた。 精神科医の悪魔祓い: デーモンと闘いつづけた医学者の手記 作者:リチャード・ギャラガー 国書刊行会 Amazon タイトルを読めば、精神科医が悪魔祓いをしているように思えるが、そうではなく著者である彼はあくまで精神科学…

本谷有希子『異類婚姻譚』は現代のおとぎ話だった

芥川賞受賞作『異類婚姻譚』を読み終わった。 異類婚姻譚 (講談社文庫) 作者:本谷有希子 講談社 Amazon おとぎ話には、不思議さのなかにちょっとした悲しみや哀れみ、畏れが混じっている感じがする。『異類婚姻譚』はちょうどそんな感じだった。どこにでもあ…

『マトリックス レザレクションズ』は二つの意味でトリニティを回収した

マトリックス レザレクションズ 通常CDプレス版 (限定枚数) アーティスト:ジョニー・クリメック&トム・ティクヴァ Watertower Music/Rambling RECORDS Amazon 大作の続編は往々にしてコケるものだが、『マトリックス レザレクションズ』はコケるどころかビル…

現実の又吉と理想の又吉の師弟関係を描いた芥川賞受賞作『火花』

7年ぶり2度目の再読。 火花 (文春文庫) 作者:又吉直樹 文藝春秋 Amazon 7年前文藝春秋誌で初めて読んだときも、今回読んだときも思った。これは現実の又吉である主人公の僕と、理想の又吉である神谷師匠の「漫才」の小説であると。これは芸人の話で、お笑い…

『コンビニ人間』という引き裂かれた自己を考察する

芥川賞受賞作『コンビニ人間』を数年ぶりに再読。 コンビニ人間 (文春文庫) 作者:村田 沙耶香 文藝春秋 Amazon すばらしい作品。 芥川賞受賞作のなかでも認知度や売り上げがトップクラスの作品だと思う。キャラクターも強烈だし、表現もすごい。読ませる。主…

世界は「関係」でできている 量子力学・哲学・仏教を一挙に理解する

カルロ・ロヴェッリの『世界は「関係」でできている』を読み終わった。 世界は「関係」でできている 美しくも過激な量子論 作者:カルロ・ロヴェッリ NHK出版 Amazon 難しかった。頭の整理も兼ねてまとめてみようと思う。 物理学者による量子力学の本なのだが…

百姓は資本主義のカウンターカルチャーたりうるか

『反逆の神話』を読み終わった。 反逆の神話〔新版〕 「反体制」はカネになる (ハヤカワ文庫NF) 作者:ジョセフ ヒース,アンドルー ポター 早川書房 Amazon いやぁ面白かった。自分の考えていたことをキレイに言語化してくれた一冊だった。こういうのを読みた…